老後資金いくら必要?国の制度を活用しつつ賢く資産形成する方法

目次
2019年に「老後2,000万円問題」が世間で大きな話題になりました。
老後生活費が足りないという認識はあっても、自分の状況をきちんと理解できている人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、必要な老後貯金の計算方法と、国の制度を活用した資産形成方法について解説します。
老後2,000万円問題とは?

そもそも老後2,000万円問題の「2,000万円」は、どのように算出されたのでしょうか。
老後2,000万円が足りないと言われる理由と、老後資金の計算方法について説明します。
(1)老後2,000万円問題とは?
老後2000万円問題とは、2019年に金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが、「高齢夫婦無職世帯の生活費が2,000万円不足する」と報告したものです。
報告書には「毎月の収入と支出から不足額が約5.5万円生じることから、老後の生活が20年の場合は1,320万円、30年の場合は1,980万円の不足額が生じる」と記載されています。
しかし実際は人によって状況が異なるため、自分が必要な老後資金を把握しておく必要があるでしょう。
老後資金はいくら必要?自分が必要額の計算方法

では、老後資金の計算方法について説明します。
まずは老後の主な収入源となる、年金の平均受給額を見てみましょう。
(1)年金の平均受給額
厚生労働所のデータによると、平均年金月額は以下の通りです。
国民年金保険 | 厚生年金保険 | |
平成28年度 | 55,373円 | 147,927円 |
平成29年度 | 55,518円 | 147,051円 |
平成30年度 | 55,708円 | 145,865円 |
令和1年度 | 55,946円 | 146,162円 |
令和2年度 | 56,252円 | 146,145円 |
国民年金保険は20歳~60歳の40年間の保険料をすべて納めると、令和4年度は月額64,816円(年間777,800円)の老齢基礎年金が受け取れます。
一方、厚生年金は年収や加入期間によって支給額が変わるため、給与水準の高い人の方が受給金額は大きくなります。
(2)自分に必要な老後資金の計算方法
老後資金は下記の計算式から算出できます。
- ☑必要となる老後資金=(支出-収入)×老後の生活期間
老後の主な収入源は公的年金ですが、支給額の目安は次のとおりです。会社員の年収は生涯平均年収とし、22歳~65歳まで働いたと仮定します。
国民年金 | 厚生年金 | 合計金額 | |
夫:会社員(年収500万円) 妻:専業主婦 | 夫:78万円 妻:78万円 | 夫100万円 妻:0円 | 256万円 |
夫:会社員(年収500万円) 妻:会社員(年収300万円) | 夫:78万円 妻:78万円 | 夫:100万円 妻:60万円 | 316万円 |
夫:自営業者 妻:専業主婦 | 夫:78万円 妻:78万円 | 夫:0円 妻:0円 | 156万円 |
夫:自営業者 妻:会社員(年収300万円) | 夫:78万円 妻:78万円 | 夫:0円 妻:60万円 | 216万円 |
著者作成(※平均年収×0.005481×加入期間で計算しています)
支出については総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)2021年」を参考にすると、65歳以上無職世帯の支出生活費は以下のとおりです。
あくまで平均値であり、病気で多額の医療費がかかるなど予想外の出費が発生することもあるので、最低限の老後資金として考えてください。
月平均の消費支出額 | 年間の消費支出額 | |
65歳以上の夫婦のみの無職世帯 | 224,436円 | 約270万円 |
65歳以上の単身無職世帯 | 132,476円 | 約160万円 |
老後の生活期間は、厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」より、65歳の平均余命年齢は、男性19.85年・女性24.73年です。
次にモデルケースごとの老後資金について試算してみましょう。
ここでは、先ほど説明した収入額・支出額をベースに、退職金や貯蓄額は考慮せず計算します。
①夫婦の場合
夫は会社員(生涯平均年収500万円)、妻は専業主婦としてシミュレーションします。
老後の生活期間ごとに老後資金を計算すると以下のとおりです。
老後の生活期間 | 必要な老後資金 |
30年 | 420万円 ((270万円-256万円)×30年) |
25年 | 350万円 ((270万円-256万円)×25年) |
20年 | 280万円 ((270万円-246万円)×20年) |
著者作成
②一人の場合
自営業の人が一人で老後を過ごす場合の老後資金のシミュレーションは次のとおりです。
老後の生活期間 | 必要な老後資金 |
30年 | 120万円 ((160万円-156万円)×30年) |
25年 | 100万円 ((160万円-156万円)×25年) |
20年 | 80万円 ((160万円-156万円)×20年) |
著者作成
③年金がない方の場合
長い間海外で生活しているなどの理由で年金がない人は、年金がないため老後資金が大きくなります。
老後の生活期間 | 必要な老後資金 |
30年 | 4,800万円 (160万円×30年) |
25年 | 4,000万円 (160万円×25年) |
20年 | 3,200万円 (160万円×20年) |
著者作成
計算結果によっては不足額が2,000万円以下のケースもありますが、2021年度の統計データを使っているため、コロナ禍による支出の減少も影響していると考えられます。
必要な老後資金は必要となる老後資金は働き方や収入・家族構成によって人それぞれであるため、目安の金額として考えてください。
老後資金に不安な方は資産形成がおすすめ

計算結果を見て、老後資金が足りるか不安に感じている方もいるでしょう。ゆとりのある老後生活を送るためには、資産形成がおすすめです。
(1)なぜ資産形成が必要?
老後資金として一番に思い浮かぶ年金ですが、年金だけで老後の生活費をまかなうのは厳しくなっています。
年金制度は若い世代から集めたお金を高齢者に渡すことで成り立っています。
しかし、日本では少子高齢化が進んでいるため、年金制度を支える若者はどんどん減っています。
今後の年金受給額は減っていくことが予想されるため、若いうちから積極的に資産形成をしておく必要があります。
(2)国が実施している制度を活用する
資産形成には、国が実施している制度の活用がおすすめです。
通常の運用と比べて、税制上のメリットが受けられます。
ここでは代表的な資産形成制度である「iDeCo」と「つみたてNISA」について説明します。
①iDeCo(イデコ)
iDeCoは月5,000円以上1,000円単位で掛金を設定して、自分の選んだ商品で運用できる私的年金制度です。掛金上限は職業などによって異なり、同じ会社員でも企業型確定拠出年金の有無などで変わります。
iDeCoは節税効果があり、掛金は全額所得控除の対象となります。
例えば、課税所得400万円(所得税20%)、毎月の掛金が1万円の人は、所得税・住民税合計で年間36,000円の節税につながります。
60歳~75歳の間に年金受取を開始し、受取方法が一時金の場合は退職所得控除、年金の場合は公的年金控除の対象となります。
税制上のメリットが大きいiDeCoですが、運用中の資金は原則60歳になるまで引き出せないため、十分検討した上で運用しましょう。
運用商品は定期預金や保険といった「元本確保型商品」と、「元本変動型商品」である投資信託から選べます。
元本変動型商品は元本割れの可能性もあるので、お金が減るリスクを避けたい人は元本確保型商品を選ぶとよいでしょう。
参考:国民年金基金連合会「iDeCo(イデコ)の特徴」
iDeCo(イデコ)について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
②つみたてNISA
つみたてNISAは長期の積立・分散投資に適した資産運用制度です。
毎年40万円までの掛金を最長20年間非課税で運用できる点がこの制度のメリットです。
対象商品は、金融庁が認めた低コストの公募株式投資信託・ETFに限られるため、投資の知識がなくても安心して始められます。
一方で運用結果によっては、掛金合計額を下回る可能性もあることを理解しておきましょう。
つみたてNISAは月数千円の掛金から始められるため、負担のない範囲で資産運用ができます。
また原則60歳まで引き出しできないiDeCoと異なり、つみたてNISAはいつでも運用商品を売却して資金を引き出すことが可能です。
参考:金融庁「つみたてNISAの概要」
つみたてNISAについて詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
③その他投資商品を運用する
既にiDeCo、つみたてNISAで資産運用を始めている人は、その他の商品に投資しましょう。
初心者にもおすすめの投資商品3つと商品ごとのポイントを説明します。
- ☑投資信託
- ☑株式
- ☑債権
投資信託は株や債券など複数の投資が組み込まれた金融商品です。
投資家のお金を運用のプロに委託できるため、初心者でも失敗するリスクは少ないでしょう。
株式投資よりも比較的安い金額で始められる点もメリットです。
ただし、運用状況によっては元本割れのリスクもあります。
株式投資は、会社が発行する株式を購入して株主になることです。会社の業績が良ければ、株主に利益が分配されます。
また株式を売却する時に株価が上がっていれば、購入時の株価との差額が利益になります。ただし会社の経営状態によっては損をする可能性もあります。
債権投資は、国や地方公共団体、会社などが資金調達のために発行する証書を購入することです。
償還までの間、定期的に発行元から利子が支払われて、償還時に証書に記載の額面金額を受け取ります。途中で売却して現金化することも可能です。
投資信託や株式と比べて元本割れのリスクは少ないですが、万が一発行者の資金繰りが悪化した場合は、元本や利子が支払われないおそれもあります。
資産運用について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
自営業の方におすすめしたい資産形成方法
自営業の方は国民年金の上乗せとなる厚生年金保険や企業年金制度がないため、公的年金受取額が少なくなります。
老後に備えて、国民年金基金や小規模企業共済年金制度の利用がおすすめです。
(1)国民年金基金
国民年金基金は、自営業やフリーランスの人が国民年金の上乗せで加入できる年金制度です。
厚生年金保険に加入できる会社員や公務員との年金額の差を解消するために作られました。
税制上のメリットが特徴で、掛金は全額社会保険料控除の対象となるため、所得税・住民税が軽減されます。
例えば課税所得金額400万円、国民年金基金掛金が年間30万円の場合、所得税・住民税合計で約9万円の軽減効果があります。
また、口数単位で掛金が自由に設定できるため、ライフプランに合わせた設計が可能です。
受取年金も公的年金控除の対象となるので、税金が軽減されます。
運用結果によって受取金額が変わるiDeCoやつみたてNISAと異なり、国民年金基金は年金額があらかじめ確定しているため、老後の資金計画が立てやすい点もメリットです。
ただし、一度加入すると任意に脱退することはできないので注意が必要です。
参照元:全国国民年金基金「加入によるメリット」
(2)小規模企業共済
小規模企業共済は、自営業の人や中小企業の経営者を対象とした共済制度です。
毎月一定額を納付することで廃業・退職時に共済金が受け取れるので、退職金代わりに加入する人もいます。
万が一の時に掛金の範囲内で事業資金の借入れも可能です。国民年金基金と同じく掛金は全額が課税対象所得から控除できるため、節税につながります。
例えば課税所得400万円の人が毎月7万円納付した場合は、所得税・住民税合わせて129,400円が節税できます。
掛金は月額1,000円から7万円までの範囲(500円単位)で設定でき、途中で増額・減額ができるため、負担のない範囲内で加入が可能です。
共済金受取時の税金も優遇されており、受け取りが一括の場合は退職所得扱い、分割の場合は公的年金控除の対象となります。
20年以上納付することで掛金を上回る共済金が見込めますが、20年未満で任意解約した場合は掛金合計額を下回ることがあるので、デメリットも理解した上で加入しましょう。
参考:中小機構「小規模企業共済 制度の概要」
老後資金に不安な方は今すぐFPに相談

必要な老後資金は分かったけれど、ひとりで資産形成できるか不安という方は今すぐFPに相談しましょう。
FPは家計や資産状況を見て、その人に最も適した資産運用方法をアドバイスさせて頂きます。
疑問点はお金のプロであるFPに解決してもらい、できるだけ早く資産運用を始めることをおすすめします。
まとめ

よく「老後2,000万円が不足する」と言われますが、不足額は人それぞれです。
現時点で老後にいくら必要か、ある程度試算しておくことが大切でしょう。
老後のお金を増やすには資産形成が欠かせません。
iDeCo、つみたてNISAなど国の制度を有効活用しましょう。
資金に余裕のある人は投資信託や株式への投資もおすすめです。
資産運用は早く始めるほどリターンも大きくなる傾向があります。
疑問点やお悩みがある人はFPに相談し、将来のために1日でも早く資産形成を始めましょう。
著者

- 株式会社アルファ・ファイナンシャルプランナーズ
- アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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