インフレとデフレの違いは?今できるインフレ対策もわかりやすく解説
最近物価が上昇し、この先どうなるのだろうかと心配になる方も多いでしょう。
日本は長年にわたって金融緩和などの政策を行ってきましたが、物価が上昇せずデフレ傾向が続いていました。しかし最近、物価の上昇が顕著になってきています。
これは新型コロナウイルス感染症の影響や、米国の経済政策・ウクライナ戦争などにより、国際的な原材料価格の高騰、円安による海外からの輸入コストの増加、国内の積極的な賃金上昇が背景にあるとされています。
そこでこの記事では、インフレとデフレの違いは何か、日本の現状およびインフレ対策などについて解説します。
インフレ(インフレーション)とは?
インフレという言葉はよく聞きますが、どのような状態を言うのでしょうか。
インフレ(インフレーション)は物価が継続的に上昇することを言います。
(1)インフレ(インフレーション)ってどんな現象?
インフレーションは、需給バランスや供給量の不足・物価に対する期待の高まりなど、さまざまな要因によって引き起こされます。
例えば、需要が供給を上回ると、モノの値段が上昇する可能性があります。
また、生産コストが上昇した場合、企業は商品価格を値上げすることもあります。
さらに、政府が財政支出を増やし、国債を発行したり、中央銀行が国債の購入額を増やすことで市場にお金が増えインフレ状態になることがあります。
このようにインフレは、日本経済のさまざまな要因によって引き起こされます。
(2)インフレのメリット
景気が良くなり、給与が上がる
需要量が増えたことにより物価が上昇すると、企業の収益は増加します。
その結果、社員により高い賃金を払うことができるようになります。
社員の給与が上がることで、消費活動は増々活性化し、お金の循環が良くなり好景気に繋がります。
景気が良いときには金利が上がる傾向があり、預金利息が増えることになります。
また、よく春の賃金交渉がニュースになりますが、物価が上昇することで労働組合側の交渉材料が増えるため賃金が上昇しやすくなります。
(3)インフレのデメリット
お金の価値が下がる
インフレが進行すると、同じ金額で購入できる商品やサービスの量が減少するため、貨幣価値は低下します。
現金や金融機関の預貯金、債券の価値が下がり資産価値は落ちます。
またインフレ時には、国の通貨価値が下がり円安になる傾向があり、海外からの輸入品も上昇することになります。
インフレには、コストプッシュインフレとデマンドプルインフレがあります。
ともに物価は上昇するのですが、その原因に違いがあります。
デマンドプルインフレは、高くても欲しいという需要が増えることで価格が上がるインフレです。
この場合のインフレは、先に挙げたメリットがあります。
しかし、コストプッシュインフレは、原材料費などのコストの上昇が原因で発生するインフレです。
この場合は、企業の収益が増えるわけではないので、経済によい影響を与える物ではありません。
現在の日本のインフレ要因の7割は、コストプッシュインフレと言えます。
デフレ(デフレーション)とは?
デフレ(デフレーション)とは、インフレに対比する言葉で物価が継続的に下落することを意味します。
(1)デフレ(デフレーション)ってどんな現象?
デフレーションとは、物価水準が下がりお金の価値が上昇することを言い、同じ金額で購入できる商品やサービスが増加します。
デフレになると、物価下落のため企業業績は悪化し、雇用や投資などの経済活動が沈滞します。
一時的には同じ金額でより多くの商品やサービスを購入できる場合もありますが、企業の減益や失業率の上昇など深刻な経済問題が発生する恐れがあります。
買い控えすることで景気が悪化し物価が下落するという事象が継続することでデフレスパイラルに陥ります。
このため不況下で経済活動が低下し失業率が上昇するといった問題も発生します。
(2)デフレのメリット
現預金や債券の価値が上がる
デフレが進むと、同じ金額でより多くの商品やサービスを購入することができます。
また、相対的にお金の価値は上昇しますので、現預金や債券を持っている人にとっては、資産価値がアップすることになります。
また、デフレが起こる要因の一つに円高もあります。
円高になれば海外からの輸入品が安くなり、物価が一層下がる傾向になります。
しかし、物価が下がり、お金の価値が上がるのは必ずしも良いことばかりではありません。
お金の価値が上がるため借金をしていた人々にとっては、借金の価値が上がってしまうことを意味し、心理的、実質的な負担返済が増すことにつながります。
また、預貯金が増えることで株や不動産に投資するメリットが少なくなり、投資が減少し経済活動が停滞する可能性もあります。
(3)デフレのデメリット
景気が悪くなり、給与が下がる
デフレになるとモノの値段が下がり、売り手にとっては安く売らなければならなくなるため、企業の収益は減少します。
そのため企業は、経費を削減する必要があり、賃金の引き下げや雇用削減を行います。
給与が下がることで消費活動は増々停滞し、さらに企業の収益は悪化するという悪循環が起こります。
このようにデフレが長期化すれば不景気の状況になります。
借金の負担が増える
お金の価値が上がるため借金をしていた人々にとっては、借金の価値が上がってしまうことを意味し、心理的、実質的な負担返済が増すことにつながります。
また、預貯金が増えることで株や不動産に投資するメリットが少なくなり、投資が減少し経済活動が停滞する可能性もあります。
不況におけるインフレ「スタグフレーション」とは?
「スタグフレーション」とは、経済が停滞するなかで物価が上昇することを言います。
スタグフレーションは、上記で説明したコストプッシュインフレが主因になることが多いです。
一般的に景気が悪化すると、需要が減退し物価が下がりますが、例えば、海外の物価上昇や円安により輸入品の価格が上昇しているのにも関わらず、日本の企業は売上が低迷、賃金も上がらないといった状態であるとスタグフレーションと称されます。
しかしスタグフレーションになると景気の悪化と物価上昇が同時に進行するために、政府が財政を管理したり日銀が金融政策を行ってもなかなか有効に機能しません。
スタグフレーションの典型例は、1970年代にオイルショックが引き起こした現象として世界的に知られています。
オイルショックは、OPECが原油価格を急騰させたことが原因で、エネルギーの価格だけでなく物価も上がり、同時に景気が低迷するスタグフレーションが発生しました。
資源価格の高騰は原材料価格の値上がりに波及し、世界経済は深刻な不況に陥り、世界経済が回復するのに10年以上を要しました。
日本ではインフレが進んでいる?今後はどうなる?
日本では、1990年代後半から物価が下がる年が多く、約30年間に渡ってデフレが続いてきました。
日本のインフレが発生しだしたのは2013年です。
低迷した日本経済を政府主導で引き上げるべく、アベノミクスの発足とともに、日銀と連携し、大胆な金融政策を行いました。
これにより、デフレマインドだった日本は徐々にインフレマインドに転嫁していきました。
この時、物価は0.1%~2%/年上昇しました。経済学の基礎理論に基づくと、物価の上昇が定着してくると、国民のマインドが「来年はもっとモノの値段が上がる。今のうちに買っておこう」という心理が働きやすくなったり、物価や賃金が上がることが当たり前化することで消費活動が活発化しやすくなります。
この火種を作ろうと政府・日銀が動いていたのがこの時期でした。
2021年以降、コロナ禍で物流がストップし、モノの供給に制限がかかり、物価が上昇しました。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻も重なり更に原材料価格が上がりました。
円安も加わり、企業の仕入値を示す企業物価指数が8~10%上昇しました。
企業も最初は、利益を削ることで販売価格への転嫁は最小限に抑えていましたが、どんどん上がる仕入れ値に限界を迎えた企業が一斉に価格を上げたことで一気にインフレが加速しました。
今年2月、日本銀行総裁は「デフレではなく、インフレ状態にあると考えている。」と発言しています。
また、総務省が2024年7月に発表した6月の消費者物価指数では、生鮮食品を除く指数で前年同月比+2.6%となりました。2023年度の前年度比は+3.1%でした。
予想されている米国の利下げが円高要因となることや、世界的な供給制限は緩和の方向に進んでいるため2%台のインフレにはなりづらいことが予想されますが、政府も日銀も安定的な物価成長を目標に政策を打ち続けているため、0以下にはならない(つまり2%にまでいかなくともインフレは起きる)と考えるのが妥当でしょう。
このような状況において、どのようなインフレ対策を打ったらよいのでしょうか。
インフレに強い資産・投資方法とは?
インフレが進行するとお金の価値が下がるため、現金や預貯金は不利になり、不動産や株式・金などの実物資産が価値を持つようになります。
したがって不動産投資や株式投資・金投資がインフレ対策の一つと考えられるでしょう。
(1)不動産投資
不動産経済の基本からすると、インフレが進み物価が上昇すると、賃貸料も同様に上昇します。
また、不動産はお金を借入れて購入することが多い資産ですので、インフレにより賃金が上昇することで買いやすくなり、需要が高まります。
この2点の側面からインフレが起きると不動産投資で収益を上げやすくなるのです。
したがって、インフレにより収益性の向上が期待できる不動産投資はインフレ対策になるといえるでしょう。
ただし、この場合のインフレは、デマンドプルインフレに限られます。
住む人の収入が増えるから家賃が値上がりし収益がアップしますし、借入もしやすくなります。
コストプッシュインフレの場合は、企業の利益が増加するわけではありませんから、賃金の上昇もありません。よって、対策にはなるとは言えません。
不動産投資について詳しく知りたい方は、下記記事を参考にしてみてください。
(2)外貨投資
資産をドルなどの外貨で保有することはコストプッシュインフレ対策の1つです。
日本の食料自給率は3割程度、エネルギーは1割程度が国内時給です。
つまり、7割の食料品、9割のエネルギーは外国に依存しています。そのため、円安になると生活費の上昇につながります。
円高の時に外貨を保有しておき、円安になって物価が上がったときに円に戻して使うように準備しておくことで円安による物価上昇時には、自身の資産も増加していることにつながるため、インフレ対策になります。
(3)株式投資
国内株式投資の場合は、原則、デマンドプルインフレの対策になります。
円安により儲かる会社、円高により儲かる会社など企業ごとのビジネスモデルによる差はありますが、株式市場全体を示すマクロ的な観点からは、デマンドプルインフレが起きると企業収益が改善され、株価が上昇する傾向があります。
また、上記でも示した通り、インフレが起きるとお金の価値が目減りすることにつながりますので、相対的にモノである株式の価値が上がることになります。
海外株式投資の場合は、株式を購入する点では国内株式と同様にデマンドプルインフレの対策となります。
しかし、海外ですから外貨を購入するという点では、上記の外貨投資で説明した通り、コストプッシュインフレの対策にもなります。
(4)金(ゴールド)投資
金は、モノの中で最も資産価値や信用度が高いです。
世界がインフレになると最も恩恵を受けやすい資産とされており、世界の人口が増えたり、新興国や後進国の人たちの収入が上がることで金を買える人の数が増えることで価格が上がります。
また、「戦争をした国の財政は圧迫し通貨の価値が下落する」という考え方から、世界で戦争が起きると、貨幣全体の下落(つまりはお金の価値の下落という意味でのインフレ)が懸念され、金に資金が回りやすくなります。
金(ゴールド)投資について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(5)商品先物
商品先物は、リスクが高いため積極的にはおすすめはしませんが、「外貨投資」でも説明した通り、日本の食料、エネルギー自給率が低く、ハリケーンや干ばつ等の被害による不作等は我々の生活に直接的なダメージを及ぼしますので、我々は、とうもろこしや大豆などの商品そのものを金融市場で取引することが可能です。
これにより、コストプッシュインフレ対策が可能になります。
ただし、商品先物市場は、”先物取引”が基本です。
先物取引は、由来を理解すると仕組みがわかりやすくなりますので解説します。
昔の物流は船が主流でした。船で輸送をすると到着するまでに数カ月かかったりしていたため、輸送中に価格が変動してしまうことで、売り手が損をしたり、買い手が損をしたりすることがありました。
これを防ぐために、「到着したときを想定して価格を決めよう」ということで決まったのが先物取引です。
そのため、先物には年限というものがあり、年限が3カ月なら3カ月先の価格ということを意味します。
本来は、船便の時間経過によるリスクを抑えるために出来上がった先物市場ですが、ここに投資家が加わり、「3カ月先のトウモロコシの価格を予想して利益を上げる」などという場に変わってきたのです。
ここに更にお金を借りて投資をする「レバレッジ」というものが加わり、先物市場はお金を借りて投資する市場に変貌しました。
そのため、今の先物市場はレバレッジをかけている分、ハイリスクな市場となっています。
ハイリスクな市場であるため、積極的にはおすすめしませんが、為替とは関連しない自然災害などによる商品の価格変動のリスクをヘッジするためには使えるものでもあるため、コストプッシュインフレ対策として活用することは可能です。
プロにインフレ対策を相談する
各個人は、資産や属性・ライフスタイルなどがそれぞれ異なります。
したがって自分にとって最も適切なインフレ対策を見つけることが大切です。
そのため、しっかりとライフプランを作って一緒に考えてくれるファイナンシャルプランナーに相談することがおすすめです。
しかし、インフレには、不動産投資や株式・金融商品などが有効な資産活用法とされていますが、それぞれリスクがありますので、資産や市場についての知識があるFPに限定して相談することをおすすめします。
弊社のファイナンシャルプランナーは、60名程度と少数精鋭です。
全員が資格を保有していることはもちろん、資産形成に関する研修や勉強会を毎週2回行い、最適かつ最新の情報を提供できる体制を整えています。
市場と自分のライフプランを総合的に考えた資産形成をお考えの方はぜひご相談ください。
弊社の相談実績を公開していますので、ご興味がある方はぜひご覧ください。
まとめ
インフレ対策には、不動産投資や株式投資・金投資などが有効ですが、少なからずリスクはあるため投資する際には気を付けなければなりません。
一つの資産運用法に偏らず、多様化してリスクを分散するのが失敗せず資産形成するポイントになります。
また投資する場合には、それぞれの投資法の基礎知識を勉強し確認すること、専門家に相談して自分に合った投資方法を選ぶことが重要になります。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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