老後資金はいくらなら安心?正しい金額の計算方法や貯め方を教えます
- ✅「老後資金は一体いくらあれば安心なの?」
- ✅「今のまま暮らしていて、退職後の生活費用が足りるか心配」
人生100年時代と言われる現代において、老後資金に不安を抱えている方は少なくないでしょう。
市場ワーキンググループが2019年に発表した報告書によると、夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯では、老後30年間で約2,000万円が不足すると言われています。
しかし不足額は人によって異なるため、必要な老後資金を明確にして、早めに準備を始めることが重要です。
本記事では、老後資金の正しい計算方法や貯め方を解説していきます。老後資金について不安な方はぜひ最後までお読みください。
老後の資金いくら必要?
最初に、老後資金はいくら必要なのかを確認しましょう。
(1)老後夫婦ふたりが必要な資金は?
まず老後の夫婦ふたりが必要な資金について、見ていきます。
①最低限の生活に必要な金額
2022年に生命保険文化センターが行った調査によると、老後に夫婦ふたりで最低限の生活に必要な平均月額は23.2万円となっています。
老後の最低日常生活費 | 割合 |
15万円未満 | 4.9% |
15万円~20万円未満 | 9.2% |
20万円~25万円未満 | 27.5% |
25万円~30万円未満 | 14.4% |
30万円~40万円未満 | 18.8% |
40万円以上 | 2.8% |
わからない | 22.5% |
②ゆとりのある生活に必要な金額
同調査によると、ゆとりある生活を送るためには、月額で平均37.9万円が必要となっています。
老後の最低日常生活費 | 割合 |
20万円未満 | 2.7% |
20万円~25万円未満 | 5.1% |
25万円~30万円未満 | 7.9% |
30万円~35万円未満 | 20.5% |
35万円~40万円未満 | 9.4% |
40万円~45万円未満 | 11.3% |
45万円~50万円未満 | 2.7% |
50万円以上 | 18.0% |
わからない | 22.5% |
ゆとりある生活のための上乗せ額の使い道は、回答が多い順から「旅行やレジャー」「日常生活費の充実」「趣味や教養」「身内とのつきあい」と続いています。
(2)年金でもらえる金額は?
次に将来、年金でもらえる金額と、受給金額の目安を詳しく見ていきましょう。
①公的年金でもらえる金額
公的年金の受給額を説明する前に、まず被保険者の区分について解説します。公的年金は被保険者の区分によって、もられる金額が異なります。
区分 | 該当する人 | もらえる年金の種類 |
第1号被保険者 | 自営業、農業・漁業従事者、学生 | 老齢基礎年金 |
第2号被保険者 | 会社員や公務員など、厚生年金保険の適用を受けている事業所に勤務する人 | 老齢基礎年金および老齢厚生年金 |
第3号被保険者 | 第2号被保険者の配偶者(年間収入130万円未満) | 老齢基礎年金 |
老齢基礎年金は、原則65歳から全国民に支給されます。
一方で老齢厚生年金は、会社員や公務員など厚生年金保険の適用を受けている事業所に勤務する人が、老齢基礎年金の上乗せでもられる年金です。
公的年金受給額は、下記の計算式から求められます。
老齢基礎年金 | 795,000円※×(保険料納付済月数+全額免除月数×1/2+4分の1納付月数×5/8+半額納付月数×3/4+4分の3納付月数×7/8)/40年×12月 ※昭和31年4月1日以前に生まれた人は年額792,600円 | |
老齢厚生年金 | 平成15年3月までの加入期間 | 平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月までの加入期間月数 |
平成15年4月以降の加入期間 | 平均標準報酬月額×5.481/1,000×平成15年4月以降の加入期間月数 |
厚生労働省のデータによると平均的な老齢年金額は、厚生年金保険受給者が145,665円、自営業や専業主婦など国民年金受給者が56,479円となっています。
出典:厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業年報」
詳細な見込支給額は、ご自身の「ねんきんネット」で確認することができるので、ぜひ活用してみてください。
②自分がもらえる金額
では自分がもらえる金額の目安として、パターンごとの年間受給額を見てみましょう。
年収は生涯平均年収と仮定し、夫・妻とも同い年で、22歳から65歳まで働く前提で計算しています。
国民年金※1 | 厚生年金※2 | 合計額 | |
夫:会社員(年収500万円) 妻:専業主婦 | 夫:約79万円 妻:約79万円 | 夫:約120万円 妻:0円 | 約278万円 |
夫:会社員(年収500万円) 妻:会社員(年収300万円) | 夫:約120万円 妻:約72万円 | 約350万円 | |
夫:自営業者 妻:専業主婦 | 夫:0円 妻:0円 | 約158万円 | |
夫:自営業者 妻:会社員(年収300万円) | 夫:0円 妻:約72万円 | 約230万円 |
※1日本年金機構「老齢年金ガイド 令和5年度版」より満額受給できるとして計算
※2 平均年収×5.481/1,000×加入期間で計算しています。
自分の老後生活に必要な金額は?
現時点で、老後の必要額を想像するのは難しいでしょう。ここでは統計データなどを用いながら、老後費用について考えてみましょう。
(1)自分が求める生活スタイルをイメージする
まずは自分が求める生活スタイルをイメージしてみましょう。例えば月1回は旅行したい、ゴルフを楽しみたいなど、理想の老後生活を考えます。
人生をより豊かにするためには、生活費だけでなく、趣味・娯楽費も用意しておくべきでしょう。
(2)生活費以外でかかる可能性がある費用
次に生活費以外にかかる可能性がある費用について、説明します。
①自宅のリフォーム費用
築年数が経つにつれて家は老朽化するため、マイホームの定期的なメンテナンスが必要になります。
また高齢になっても生活しやすいように、バリアフリーのリフォームを行う場合もあるでしょう。
リフォームの種類によって工事費は違いますが、室内に手すりを付ける場合は5万円~10万円程度、戸建ての玄関にスロープを付ける場合は50万円程度が相場です。
②冠婚葬祭などの費用
冠婚葬祭などの費用も、考慮しておく必要があります。
子どもの結婚式や孫の誕生など、親族にライフイベントが発生すれば、お祝い金がかかるケースが想定されます。
また、自分や家族が亡くなった時は葬儀代が必要です。
生命保険文化センターの「葬儀の平均総額」によると、平均総額は約111万円となっています。
出典:生命保険文化センター「葬儀の平均総額」
③入院、手術などの費用
年を取るにつれて、ケガ・病気で入院や手術が必要になるケースも増えるでしょう。
厚生労働省の医療費の動向データによると、75歳以上の1人あたりの年間医療費は93.9万円です。
出典:厚生労働省「令和3年度 医療費の動向」
医療費が高額になると、高額療養費制度などの軽減措置を利用することもできますが、医療保険やがん保険などの加入を検討するのも選択肢の一つです。
④介護費用
「令和3年度 生命保険に関する全国実態調査」によると介護費用のうち、リフォーム代や介護ベッド購入費など、一時金的にかかった費用は平均74万円です。
一方でデイサービスなど、月々かかっている費用は月額平均8.3万円となっています。
なお同調査によると、介護期間は平均61.1ヶ月(5年1ヶ月)満期であるため、介護費用は全体で581.13万円と見積もれます。
出典:生命保険文化センター「令和3年度 生命保険に関する全国実態調査」
(3)自分に必要な老後費用を試算する
前述の通り、夫婦ふたりで必要な生活費は下表のようになります。
最低限の生活に必要な金額 | ゆとりのある生活に必要な金額 | |
月間 | 23.3万円 | 37.9万円 |
年間 | 約280万円 | 約455万円 |
老後に必要となる費用は、収入から支出を差し引いた差額に、年数を掛けると算出できます。
夫は22歳~65歳まで会社員(生涯平均年収500万円)として働き、妻は専業主婦と仮定した場合、必要な老後資金は以下のとおりです。
老後の生活期間 | 最低限の生活に必要な金額 | ゆとりのある生活に必要な金額 |
20年 | 40万円 ((278万円-280万円)×20年) | 3,540万円 ((278万円-455万円)×20年) |
25年 | 50万円 ((278万円-280万円)×25年) | 4,425万円 ((278万円-455万円)×25年) |
30年 | 60万円 ((278万円-280万円)×30年) | 5,310万円 ((278万円-455万円)×30年) |
実際には退職金の給付などもありますが、あくまで収入から支出を差し引いて算出される費用を記載しています。
老後資金を貯めるにオススメの方法
年金だけで老後生活を送るのは、難しいことがお分かりいただけたと思います。老後資金を貯めて、ゆとりある生活を送るためにオススメの方法をご紹介します。
(1)投資信託
投資信託は投資家から集めた資金を、運用会社が運用して、得られた利益を分配金として還元する商品です。
運用のプロに、投資先や運用方法の選定を任せることができるため、知識のない投資初心者でも安心して始められます。
運用を人に任せる分、保有期間中は信託報酬などの手数料がかかります。
手数料を抑えたい人は、日経平均などの経済指標に連動するように運用される「インデックスファンド」を選ぶとよいでしょう。
投資信託について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(2)不動産投資
不動産投資はアパートやマンションを購入し、賃貸に出すことで家賃収入を得る方法です。入居者が住んでいる間は、基本的に何もしなくても、毎月賃料が入ってきます。
定年退職後の収入源としても期待できるでしょう。ただし他の方法と比べて投資金額が大きいため、空室になると多額の損失が発生します。
不動産会社やFPなどの専門家に相談して、入居してもらいやすい物件を選ぶことが大切です。
不動産投資のメリット・リスクなどについて詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(3)外貨預金
外貨預金は、米ドルなど外貨で預金することです。外貨は日本円より金利が高いケースが多く、より多くの利息がもらえる可能性があります。
外貨預金は為替相場の状況によって、為替差益も得られる点が魅力です。
例えば1ドル=100円で100万円を預け入れて、払戻時に1ドル=120円まで円安が進むと、20万円の利益が発生します。
基本的な仕組みは円預金と変わらないため、知識がなくても気軽に始められます。
しかし、外貨預金は預金保険制度の対象外であるため、銀行が破綻した場合は、元本割れとなる恐れがある点には注意しましょう。
(4)金(ゴールド)投資
金投資は、名前のとおり金に投資することです。金貨やインゴットなどの実物に投資する方法と、金に投資する投資信託を購入する方法があります。
金は株式や債券のように、信用力がなくなることによって価値が減少しません。
戦争やテロなど有事の際は、金の価値が上昇する傾向があるため、一般的な投資方法のリスクヘッジとして使われます。
ただし金は保有しているだけでは利益が発生せず、売却することで利益が得られます。資産運用では投資信託や株式投資をベースに、一部を金投資に回すのがおすすめです。
金(ゴールド)投資について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(5)つみたてNISA
つみたてNISAは年間40万円までの投資額を、最長20年間非課税で運用できる制度です。
長期の積立・分散投資を推進するために国が作った非課税制度であるため、まずはつみたてNISA枠で投資を始めるとよいでしょう。
投資対象は金融庁が認めた優良な投資信託やETFに限定されているため、初めて人でも安心です。
2024年1月にはNISAが新しくスタートします。非課税枠の増加などのメリットが増えています。より詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
また、私が講師を務める「新NISA制度丸わかりセミナー」の動画をLINE友達限定にて公開しています。
- つみたてNISAの落とし穴
- 新NISAの注意点
- 実際に私が実践している投資商品
- 成功するための鉄則
などリアルな情報がたくさんです。つみたてNISAで損をしている方、これからNISAを検討している方は、ぜひご覧ください。
(6)iDeCo(イデコ)
iDeCoは正式名称を個人型確定拠出年金といい、公的年金に上乗せる私的年金制度です。
掛金を自分自身で選んだ金融商品で運用して、60歳以降に一時金または年金形式で受け取れます。
iDeCoには次のような税制上のメリットがあります。
- ✅拠出した掛金が全額所得控除の対象となるため、所得税・住民税の節税効果がある
- ✅運用期間中の運用益は非課税扱い
- ✅受け取り時に税金が軽減される
掛金および運用益は、原則60歳まで引き出せないため、無理ない範囲で掛金を設定しましょう。
なお、つみたてNISAと同様に節税効果があるため、一般的な投資に先行して活用するのがおすすめです。
iDeCo(イデコ)について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(7)個人年金保険
個人年金保険とは、60歳など一定の年齢まで保険料を積み立てて、積立金を後から一時金や年金で受け取る保険商品です。
老後資金を計画的に貯められるメリットがあります。
また、保険料が生命保険料控除の対象になるため、節税効果も得られます。
個人年金保険を途中で解約すると解約返戻金が戻ってきますが、この金額が払込保険料を下回るケースもあるため、注意が必要です。
なお個人年金保険は、死亡保障が含まれる貯蓄型保険であるため、通常の資産運用と比べると割高になるケースも考えられます。
(8)退職金の運用
厚生労働省のデータによると、大学卒・大学院卒の退職金平均値は1,983万円とです。
出典:厚生労働省「平成30年_就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態」
定年後20年~30年を生きると考えると、計画的に運用すべきでしょう。
不動産投資などはローンが組めない可能性が高いので、株式や投資信託など、ミドルリスクミドルリターンの商品で運用するのがおすすめです。
退職金を資産運用する時のコツや注意点について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
年代別!老後資金を認識した資産運用のコツ
では老後資金を認識した資産運用のコツを年代別に見ていきましょう。
(1)20代はイメージしにくいため少額から
20代という若さでは、まだ老後生活をイメージできない方もいるでしょう。
社会人になったばかりで、お金に余裕がないケースもあるため、まずは少額から積立投資を行いましょう。
少額では投資する意味がないと思うかもしれませんが、複利運用の場合は投資期間が長いほど、利回りが高くなるのでおすすめです。
20代が資産運用する時にオススメの投資商品や注意点などについて、下記記事を参照にしてみてください。
(2)30代はライフスタイルが変わりやすい時期で抑えた金額
30代は結婚や出産など、ライフスタイルが変わりやすい時期です。
急にまとまった出費が必要になる場合もあるため、必要資金を確保した上で、余ったお金を資産運用に回しましょう。
20代と同様に、30代も長期運用ができるため、少額でも投資により高い利回りが期待できます。30代が資産運用する時のコツなどについて、下記記事を参照にしてみてください。
(3)40代はより具体的な金額をイメージしプランを見直す
40代で子育てがひと段落すると、より具体的に老後資金をイメージして、資産運用のプランを見直すことをおすすめします。
住宅ローンの支払いや教育費なども考慮しつつ、無理のないプランを立てましょう。
家族が増えると支出も増えますが、若い頃より収入も増えているため、その分を資産運用に回しましょう。
40代が資産運用するときのコツなどについて、下記記事を参照にしてみてください。
(4)50代は余裕が出てくるため金額の見直しをする
50代は子どもが大学を卒業し、生活に余裕が出てくる方が多いと思われます。
定年以降は主な収入が年金になるため、住宅ローンなどを現役時代に返済しておくのも一つの方法です。
今後のライフイベントで必要なお金を意識しつつ、老後資金を準備しましょう。
50代が資産運用する時の注意点などについて、下記記事を参照にしてみてください。
(5)60代は退職金などを考慮した資産運用も検討する
60代で定年退職を迎えた後は、退職金を有効に活用して、老後に備えましょう。
運用期間が短いと感じるかもしれませんが、定年後20年~30年近くあるため、長期運用による複利効果が十分見込めます。
投資信託などに投資して、積極的な資産運用を行いましょう。60代の資産運用について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
より正確なプランニングを立てたい方は専門家に相談
ここまで老後の必要費用や資産運用方法について、ご説明してきました。
より正確な資金計画を立てたい方は、我々FP(ファイナンシャルプランナー)などの専門家に相談するのがおすすめです。
FPは暮らしやお金のプロであり、金融分野の総合的なアドバイザーです。あなたのライフプランや家計収支に合った、老後資金の準備方法をアドバイスさせて頂きます。
老後資金の不足分の算出や、資産形成のシミュレーションなども対応しています。
まとめ
老後夫婦ふたりの生活費は最低でも月23.2万円、ゆとりのある生活の場合は37.9万円が必要です。
老後に必要となる費用は、収入から支出を差し引いた差額に、老後の年数を掛けると算出できます。
老後資金に備えるには、預貯金だけでなく資産運用も組み合わせて、効率的に資産を増やすことが大切です。
投資経験がなく不安な方は、気軽に我々FPに相談してみてください。豊かなセカンドライフの設計をお手伝いいたします。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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