資産運用にかかる税金の仕組みは?FPが税金の種類や節税の施策も解説
個人所得の伸び悩みや低金利、そして将来不安から資産運用を始める人が多くなっているようです。
資産運用は、基本的に資産を増やすために行う行為ですが、資産が増えるということは所得が発生していることになるので、必ず税金の問題が発生します。
この記事では、資産運用で発生した所得にかかる税金の仕組みや種類と、個人でも出来る節税策について解説します。
資産運用で利益が出た場合は税金がかかる
日本国籍を持っていて日本に居住していれば、個人の所得に対して所得税がかかるのですが、資産運用で出た利益も例外ではありません。
日本の所得税は、その性質によって10種類に分かれ、それぞれの所得について、収入や必要経費の範囲あるいは所得の計算方法などが定められています。
所得の種類 | 代表的な内容 | 課税区分 |
利子所得 | 預貯金や公社債などの利子 | 源泉分離課税 |
配当所得 | 株主や出資者が法人から受ける配当や、投資信託および特定受益証券発行信託の収益の分配などに係る所得 | 総合課税(上場株式は分離課税も可) |
不動産所得 | 土地や建物などの不動産、借地権など不動産の上に存する権利、船舶や航空機の貸付けによる所得 | 総合課税 |
事業所得 | 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生ずる所得 | 総合課税 |
給与所得 | 勤務先から受ける給料、賞与などの所得 | 総合課税 |
退職所得 | 退職により勤務先から受ける退職手当や厚生年金基金等の加入員の退職に基因して支払われる厚生年金保険法に基づく一時金などの所得 | 分離課税 |
山林所得 | 山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得(山林を取得してから5年以内に伐採または譲渡した場合には、山林所得ではなく、 事業所得または雑所得) | 分離課税 |
譲渡所得 | 土地、建物、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得 | 分離課税 |
一時所得 | 利子所得から譲渡所得までのいずれの所得にも該当しないもので、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外のものであって、労務その他の役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得 | 総合課税 |
雑所得 | 利子所得から一時所得までの所得のいずれにも該当しない所得(年金収入も雑所得) | 総合課税 |
資産運用には、株式や投資信託などの金融商品への投資、不動産投資などさまざまなものがあり、その内容によって計算方法と課税方法が変わってきます。
課税方法で大別すると、「総合課税」と「分離課税」の2つの方法に分かれ、さらに分離課税のなかで受取時に、源泉所得税を徴収されて申告も要しない「源泉分離課税」の特例措置があります。
どの方法で課税されるかは、資産運用の種類ごとに見たほうが分かりやすいので、この後より詳しく見ていきましょう。
資産運用商品別!税金の仕組み
先ほども触れたとおり、資産運用で利益が出た場合にかかる税金は、資産運用の種類によって変わってきます。
ここからは、資産運用の商品や投資の種類で変わってくる税金の仕組みを、ケースごとに確認していきましょう。
(1)預貯金でかかる税金
預貯金とは、預金者が預けたお金に対して、金融機関が定期的な利息の支払と将来の元本の支払を保証している金融商品のことで、資産運用というイメージは薄いかもしれません。
預貯金で得られる運用益は利息で、所得税では利子所得に分類されますが、利子所得にかかる税金の仕組みや税率を確認してみましょう。
①利子所得の税金の仕組み
利子所得に対しては、15%の所得税と5%の住民税、そして2037年12月31日までは所得税の2.1%の復興特別所得税が課税され、合計で20.315%の税金がかかります。
預金の利息は源泉分離課税制度の対象とされているため、利息を支払う金融機関が税金をあらかじめ徴収して納税が完結し、確定申告は不要です。
②利子所得の非課税制度
利子所得には非課税制度があり、「障害者等の少額貯蓄非課税制度」と、長い名前ですが「勤労者財産形成住宅貯蓄および勤労者財産形成年金貯蓄の利子非課税制度」の2つです。
前者の制度では、障害者手帳を交付されている人や、遺族基礎年金の受給者などは、少額貯蓄非課税制度(マル優)を利用すれば、預金350万円までの利息が非課税になります。
後者の制度では、財形住宅貯蓄や財形年金貯蓄では、合計預金額550万円までの利息が非課税です。
(2)株式、投資信託でかかる税金
株式投資や投資信託でかかる税金は、配当や分配金と株などの売却益と別の課税になります。
つまりインカムゲインとキャピタルゲインとで違った税金がかかるのですが、それぞれのケースで見てみましょう。
①配当所得の税金の仕組み
株式を買い投資した会社が利益を上げたら、株主へ配当金が支払われることがあります。
このような株式投資の配当金や、投資信託などの運用益の分配金などによる所得は配当所得として課税されます。
配当所得は、原則として総合課税の対象となる所得として、確定申告の対象とされますが、上場株式等の配当等については、申告分離課税を選択することができます
資産運用で投資する株式のほとんどは上場株式になるので、配当金の支払い時に利子所得と同様に所得税など20.315%の税金が源泉徴収されます。
このことから課税所得が多い人は分離課税を選択したほうが得になるのですが、その分岐点は課税所得900万円となります。
所得税と住民税で異なる「申告方法」を選択することも可能なので、もっとも有利になる選択肢は下表のようになります。
課税所得 | 所得税 | 住民税 |
900万円以下 | 総合課税 | 申告分離課税もしくは申告しない |
900万円超 | 申告分離課税 | 申告分離課税もしくは申告しない |
②配当控除の計算方法
配当金を総合課税で申告する場合、一定の方法で計算した金額の税額控除を受けることができます。
これは配当金がすでに法人税が課税された後のお金を分配したものなので、さらに所得税をかけると二重課税になるため、これを出資者に還元するための控除です。
課税所得が1,000万円以下の場合、配当控除は配当金の10%ですが、配当所得によって1,000万円を超えた部分は5%になります。
例えば課税所得が1,050万円で、そのうち配当所得が80万円あった場合の計算は以下のとおりです。
(イ)80万円-(1050万円-1000万円)=30万円 ・・・10%分
(ロ)80万円-(イ)=50万円 ・・・5%分
配当控除額=30×10%+50万円×5%=55,000円
株式投資信託の収益分配金や外貨建等証券投資信託についても、株式の配当金と同じく配当所得となり配当控除を適用できますが、次のとおり控除率が異なります。
- ☑剰余金の配当等に係る配当所得……10%
- ☑証券投資信託の収益の分配に係る配当所得……5%
- ☑一般外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当所得……2.5%
これらも1,000万円を超えた部分の配当控除は2分の1で計算します。
③配当控除を受ける方法
配当控除を受けるためには、給与所得など他の総合課税に該当する所得と合算して確定申告をします。
先ほど説明したとおり、配当控除を受けられたとしても損をする場合があるので、不安があるなら税理士などの専門家に相談しましょう。
④株などを売却した時の税金
株式を保有して得られる収入以外に、株などを売却した時にも税金がかかる場合があります。
株が購入時の価格より値上がりし、売却時に譲渡益が出た場合に所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%の税金がかかり、これは国内株式でも外国株式でも同じです。
株取引で利益が出た場合には原則として税務署に確定申告が必要となります。
ただ証券会社の証券口座が「特定口座(源泉徴収あり)」の場合と、サラリーマン等の給与所得者で売却益が20万円以下の場合には、確定申告不要です。
(3)不動産投資でかかる税金
不動産投資によりかかる税金には、不動産所得に対して課税される所得税と、取得した際に課税される不動産取得税、所有している不動産に課せられる固定資産税などの地方税があります。
ここでは不動産による収入金額から経費を引いた所得金額に課される所得税の仕組みについて説明します。
①不動産所得が黒字な場合
投資している不動産から発生する家賃収入などのインカムゲインから、それを得るために必要だと認められる経費を引いた金額が黒字であれば、他の総合課税の所得と合算して所得税がかかります。
もし会社員の方でしたら、年末調整で一度所得税は清算されているので、申告書を提出することで不動産所得の分だけ納税することになります。
②不動産投資が赤字な場合
残念なことに不動産投資が赤字の場合は、総合課税の給与所得等と損益通算を行うことで所得金額を圧縮できます。
先ほど年末調整を終えた会社員の話をしましたが、このケースでは確定申告することによって、給与所得に課税されていた税金の還付を受けることになります。
節税に繋がる施策
資産運用で利益を出したとしても、なにも対策を打たなければ税金によって投資効果も目減りします。
投資家としては、投資先や運用方法に目が行きがちになりますが、税金負担を減らす対策も大切です。
ここでは投資対象ごとの税金対策について、税制優遇措置を含めて投資初心者にも分かるようにポイントを説明します。
(1)利益が非課税のつみたてNISA、iDeCo(イデコ)
つみたてNISA(ニーサ)は、投資信託の一種なのですが、投資で得られた利益を「NISA口座」内で一定額非課税となる税制上の優遇措置があることが大きな違いです。
常の投資で運用益・分配金に課税される20.315%の所得税が掛からないメリットは大きいので、毎年積立するのはオススメの投資といえます。
2018年1月からスタートした制度ですが、令和5年度税制改正の大綱で2024年以降のNISA制度の拡充・恒久化の方針が示されおり、その違いは以下のとおりです。
非課税期間と非課税枠が拡大することになります。
2023年まで | 2024年以降 | |
年間投資枠 | 40万円 | 120万円 |
非課税保有期間 | 最長20年間 | 無期限化 |
非課税保有限度額 | 800万円 | 1,200万円 |
つみたてNISAについて詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
また、私が講師を務める「新NISA制度丸わかりセミナー」の動画をLINE友達限定にて公開しています。
- つみたてNISAの落とし穴
- 新NISAの注意点
- 実際に私が実践している投資商品
- 成功するための鉄則
などリアルな情報がたくさんです。つみたてNISAで損をしている方、これからNISAを検討している方は、ぜひご覧ください。
iDeCo(イデコ)は個人型確定拠出年金(individual-type Defined Contribution pension plan)の略称で、簡単いえば公的年金では不足する老後資金に備えるための積立年金です。
iDeCoは、支払った全額が所得控除の対象になり、運用益も非課税になるので非常に節税効果が高いといえます。
掛金を60歳まで引き出せないデメリットはありますが、一定額を積立に回す余力がある方にとっては節税しながら資産形成ができる魅力的なものです。
iDeCo(イデコ)について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(2)不動産投資は確定申告で青色申告をする
不動産投資で節税効果が高いのは、不動産所得を青色申告することですが、これには一つ注意点があります。
不動産投資で青色申告を認められるためにはいくつかの要件があり、65万円の青色申告特別控除を受けるためには以下の全てを満たすことが必要です。
- ☑事業的規模で不動産の貸付をしていること
- ☑複式簿記で記帳を行っていること
- ☑確定申告書に貸借対照表・損益計算書等を添付して、期限内に提出すること
- ☑e-Taxや電子帳簿保存を用いて確定申告を行うこと
恐らく「事業的規模」というのが大きなハードルで、国税庁のサイトに以下の基準が示されています。
- ☑貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
- ☑独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
この点さえクリアできれば、知識に自信がなくても専門家に相談することで、かんたんに青色申告のメリットを受けられます。
またこれらの書類は多少勉強すれば自分でも作成できるので、手間がかかっても挑戦してみることをおすすめします。
(3)株式は確定申告で配当控除を受ける
株式投資によって配当所得がある場合、確定申告をすることで配当控除を受けられ、所得税が還付される場合があります。
配当控除によるメリットとデメリットは、先ほど解説したとおりで、基準が課税所得900万円を下回っていれば申告すべきです。
株式の確定申告について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(4)赤字な場合は「損益通算」「損失繰越」
不動産投資や株式投資で赤字が出た場合には、「損益通算」によって所得税を圧縮したり、翌年以降に損失を繰り越したりできます。
不動産投資による損益通算は、先ほど説明したとおりですが、引ききれなかった赤字を翌年以降に繰り越せる「損失繰越」は、青色申告の承認を受けていることなので、「事業的規模で不動産の貸付をしていること」が重要なポイントです。
繰越損失は、その損失額を翌年以降の所得額から繰越控除でき、損失は翌年以降3年間にわたって繰越ができます。
詳しく知りたい方は専門家に相談
年金制度も当てにならなくなり、資産運用へ関心が高まってしますが、慣れていないことへの挑戦は不安がつきものです。
資産運用とそれにかかる税金はワンセットのようなもので、肝心の資産を増やしたいという希望を考えると避けられない問題といえます。
そのことで悩むのは投資を考えると無駄な時間なので、我々FPのような専門家に相談することで時間を節約しましょう。
専門家に任せることで、本来向き合うべき資産運用に集中できるので、使わない手はないのです。
まとめ
資産運用の目的は、はっきり言ってしまえば「儲けて資産を増やすこと」ですが、日本の税制は「儲け」に税金を課すシステムです。
ただ儲けの全てを取られるわけでもなく、正しい節税法を知れば安心して資産運用に集中できます。
この記事を参考にして、税金を意識しながら投資効果を最大化出来るように、メリハリをつけていきましょう。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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