不動産の買い替え特例とは?要件、計算方法や注意点を分りやすく解説
不動産の買い替え特例とは、マイホームを買い替えるときに利用できる節税制度です。
不動産の売買では多額のお金が取引される分、課税される金額も高額になります。
不動産の買い替え特例を活用すれば、売却益への課税を先送りしたり、売却による損失分をほかの所得から控除したりと買い替え時に支払う税金の軽減が可能です。
ただし、居住用不動産の売買においては、ほかにも節税につながる特例が存在します。
本記事では、不動産の買い替え特例を適用するための要件や計算方法などの基礎知識にくわえて、ほかの特例と比較したシミュレーションや注意点も解説していきます。
不動産の買い替え特例とは
不動産の買い替え特例としては、「居住用の住宅」に対する特例と「事業用資産」に対する特例が挙げられます。
ここでは、「自身の住まいとなるマイホーム」の買い替え時に知っておきたい税制上のお得な特例をご紹介します。マイホームの買い替えに関わる特例は、おもに以下の2種類です。
- 特定の居住用財産の買換え特例
- 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
「特定の居住用財産の買換え特例」は、自宅を売却して新たな住居を購入した場合、一定の要件を満たせば売却時の譲渡益にかかる税金の支払いを先送りにできる制度です。
不動産の売却によって利益を得た場合、その利益に対して約20~40%の譲渡税(譲渡所得税)が課税されます。
そこで、特定の居住用財産の買換え特例を使えば、売却時に課税される譲渡所得税の支払いが、新たに取得した住居を売却するときまで繰り延べされます。
また、マイホームが高く売れずに売却損が生じた場合に使えるのが「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。
通常、不動産による譲渡損失は、給与などのほかの所得から差し引くことはできません。
しかしこの特例を利用すると、譲渡損失の分だけほかの所得を減らせるため、個人全体の所得が圧縮されて所得税が軽減されます。
買い替え特例を適用するための要件は?
住まいの買い替えの際に特例を利用するためには、前提条件として元のマイホームも新たなマイホームも日本国内のものでなければなりません。
買い替え特例の適用を受けるには、それぞれの特例で要件を満たす必要があり、売却する不動産、新たに購入する不動産それぞれにも適用要件が定められています。
細かい条件をチェックしていきましょう。
(1) 特定の居住用財産の買換え特例
特定の居住用財産の買換え特例は、元の住居の売却額よりも新居の購入価格のほうが高い場合に、譲渡所得税の課税が繰り延べされる制度です。
特例を利用するための条件を、元のマイホームである「売却する不動産の条件」と、新たなマイホームである「買い替えする不動産の条件」にわけて詳細をみていきましょう。
① 売却する不動産の条件
特定の居住用財産の買換え特例を使うには、売却する不動産は以下の条件を満たすものでなければなりません。
- ✅売却する年の1月1日時点で、売却する家屋・敷地において、売主本人の居住期間と所有期間が10年以上である
- ✅現在の住まいでない場合は、家を離れた日から3年経過した年の12月31日までの売却である
- ✅家屋を取り壊している場合は、住まなくなった日から3年経過した年の12月31日までの売却、かつ取り壊した日から1年以内に譲渡契約を締結している(更地の状態の土地を賃貸駐車場などに活用していないこと)
- ✅売却価格が1億円以下であり、親子や夫婦、親族などの関係者への売却ではない
居住期間は、継続で10年住み続けている必要はなく、家を離れた期間があってもトータルの居住期間が10年以上であれば条件を満たせます。
② 買い替えする不動産の条件
つぎに、新たに購入する不動産の条件をまとめます。
- ✅床面積が50平米以上であり、土地面積が500平米以下である
- ✅元のマイホームを売却した年と、その前後1年を含めた3年の間での購入である
- ✅売却した年または前年に取得した場合は、売却年の翌年12月31日までに入居、もしくは入居見込みである
- ✅売却した翌年の取得であれば、取得年の翌年12月31日までに居住する
- ✅耐火建築物の中古物件への買い替えの場合、取得日以前25年以内に建築されたもの、または新耐震基準を満たすものである(耐火建築物以外の場合、取得期限までに一定の耐震基準を満たすものでなければならない)
- ✅令和6年1月1日以後に入居の場合、一定の省エネ基準を満たしている(令和5年12月31日以前の建築確認、および令和6年6月30日以前の建築は除く)
特定の居住用財産の買換え特例を利用するには、購入した不動産に本人が居住しなければなりません。入居を済ませる期限が取得した時期により異なるため、ご注意ください。
参照:国税庁
(2) 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
元の住居の売却時に損失が出た場合に活用できるのが、「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。
特例を適用するための条件を、売却する不動産、買い替えする不動産それぞれで把握しておきましょう。
① 売却する不動産の条件
特例の適用を受けるには、売却する住居は以下の条件に該当している必要があります。
- ✅売却する年の1月1日時点で、売却する家屋・敷地に関して、売主本人の居住期間と所有期間が5年以上である
- ✅現在居住していない場合は、住まなくなった日から3年が経過した年の12月31日までの売却である
- ✅家屋を取り壊している場合は、住まなくなった日から3年が経過した年の12月31日までの売却、かつ取り壊した日から1年以内に譲渡契約を結ぶ
- ✅親子や夫婦、親族などの関係者への売却ではない
特定の居住用財産の買換え特例では、居住・所有期間が「10年以上」であったのに対して、譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例では「5年以上」となる点がポイントです。
② 買い替えする不動産の条件
新たに取得するマイホームに対する条件は以下のとおりです。
- ✅元のマイホームを売却した年と、その前後1年を含めた3年の間での購入である
- ✅家屋の床面積が50平米以上である
- ✅取得した年の翌年12月31日までに入居、もしくは入居見込みである
- ✅取得した年の12月31日時点で10年以上の返済期間を残す住宅ローンを組んでいる
先述の「特定の居住用財産の買換え特例」と異なるのは、新たなマイホームの購入時に10年以上の住宅ローンを組む必要がある点です。
譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例は、住宅ローン控除と併用できるのがメリットの1つです。
譲渡損失を損益通算し、それでも残った所得部分には住宅ローン控除が適用されるため、所得税の節税効果が非常に高い優遇制度といえます。
参照:国税庁
買い替え特例を適用するために必要な書類
マイホームの買い替え特例を利用するときには、適用条件への該当を示す書類を提出しなければなりません。特例の適用を受ける流れは、マイホームを売却した年の翌年2月16日から3月15日までに、必要書類を添付して確定申告の手続きを行う手順となります。
「特定の居住用財産の買換え特例」と「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」、それぞれに必要な書類を具体的に説明します。
(1) 特定の居住用財産の買換え特例
特定の居住用財産の買換え特例の適用を受けるために必要な書類は以下のとおりです。
- ✅譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- ✅売却した不動産の登記事項証明書や売買契約書の写し
- ✅売却した不動産を取得したときの売買契約書の写し
- ✅購入した不動産の登記事項証明書や売買契約書の写し
- ✅住民票もしくは戸籍の附票(売却時に居住していない、もしくは10年以内に住所を異動している場合)
購入した住居の状態によっては以下のものが必要となります。
- ✅購入した不動産の検査済証や確認済証
- ✅住宅省エネルギー性能証明書または建設住宅性能評価書
- ✅25年以内に建築されたものであることを明らかにする書類、または耐震基準適合証明書(中古住宅の場合)
これらの書類を揃えて、所轄税務署で確定申告しましょう。
(2) 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を使用するには、次のような書類を準備しましょう。
- ✅居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)
- ✅居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書
- ✅売却した不動産の登記事項証明書や売買契約書の写し
- ✅購入した不動産の登記事項証明書や売買契約書の写し
- ✅購入した年の年末時点での住宅ローンの残高証明書
- ✅住民票もしくは戸籍の附票(売却時に売却するマイホームと住所が異なる、もしくは5年以内に住所を異動している場合)
なお、譲渡損失の損益通算が初年度だけで控除しきれない場合は、翌年以降3年間にわたり譲渡損失の繰り越しが可能です。
所得と相殺できなかった譲渡損失は、2年目以降も確定申告することで所得控除を受けられるため、忘れずに確定申告しましょう。
買い替え特例を利用する時の注意点2つ
不動産の売買にかかる税金は高額になるため、買い替え特例を使うことで大きな節税効果が期待できます。
ただし、安易に買い替え特例を利用してしまうのは考えものです。
ほかの特例と併用できない点や、免税ではなく「納税の先送り」である点など、押さえておくべき注意点もチェックしておきましょう。
(1) 他と併用できない特例がある
マイホームの買い替え特例の適用を受けると、以下のような特例は利用できなくなる点に注意が必要です。
- ✅3,000万円控除の特例
- ✅10年超所有軽減税率
- ✅住宅ローン控除(特定の居住用財産の買換え特例のみ併用不可)
自宅を売却するときに、まず検討したいお得な特例が「居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除の特例」です。
この特例は、所有期間の長さや買い替えの有無にかかわらず、マイホームの売却益が3,000万円までであれば譲渡所得税がかからない優遇措置です。
3,000万円を超えた部分に関しては課税対象となりますが、3,000万円までの譲渡所得は全額控除され非課税となります。
さらに、所有期間が10年を超えた自宅を売却する場合には「10年超所有軽減税率の特例」もあります。
譲渡益6,000万円以下の部分の税率が通常の20%から14%に軽減され、さきほどの「3,000万円控除の特例」との併用が可能な特例です。
また、これまで説明してきたマイホーム買い替え特例のうち、譲渡所得にかかる税金を繰り延べする「特定の居住用財産の買換え特例」は、「住宅ローン控除」と併用ができません。
つまり、マイホームの売却益が3,000万円以下であれば「3,000万円特別控除の特例」で税金はゼロになり、3,000万円超の部分も減税措置である「軽減税率の特例」があるのです。
売却益の金額によっては、納税の先送りである「特定の居住用財産の買換え特例」よりも、ほかの特例を適用したほうが将来的に支払う税金額は減らせる可能性が高いといえるでしょう。
(2)「特定の居住用財産の買換え特例」の税金はまとめ納付になる
特定の居住用財産の買換え特例は、免税や減税の措置ではありません。買い替え時に支払う税金を、新たに取得した住宅を将来売却するときまで先送りできる制度です。
そのため、今回は税金を納める必要がなくても、次にマイホームを売却するときには今回分の税金もまとめて納付しなければなりません。
新たに取得したマイホームを生涯売却する予定がなければ節税効果があるともいえますが、将来のことは確実ではないでしょう。
新居を売却する可能性も見越して、どの特例を使うべきかを慎重に判断する必要があります。
買い替え特例を利用した税金のシミュレーション
マイホームの買い替え特例を利用した場合に、課税額がどのように軽減されるのかシミュレーションしてみましょう。
売却益が出たケースでの課税金額を、「特定の居住用財産の買換え特例」と「3,000万円特別控除の特例」それぞれの特例を適用した場合で計算します。
さらに、売却による損失が出たケースでの節税金額もシミュレーションしますので、参考にしてください。
(1) 売却益が出た場合のシミュレーション
まず、譲渡所得税の計算方法を説明します。
自宅を売却したときの利益である譲渡所得は以下の計算式で算出します。
- ✅譲渡所得=売却価格(譲渡価格)−(取得費+譲渡費用)
取得費とは、マイホーム取得時の購入金額と手数料などの必要経費を合わせた合計額です。ただし、取得時の購入価格そのままが取得費になるのではなく、経過した年数に応じた減価償却費を差し引く必要があります。
譲渡費用は、マイホーム売却時にかかった仲介手数料や印紙税などの費用です。
売却代金から取得費と譲渡費用を差し引いた額が、この不動産の譲渡所得となります。
譲渡所得税の税率は以下のとおりです。
所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | 復興特別 所得税 | 合計税率 | |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
譲渡所得に所有期間に応じた税率を掛け合わせると、課税される譲渡所得の税額が算出されます。
ここからは以下の条件で、特定の居住用財産の買換え特例と3,000万円控除の特例を適用した場合のシミュレーションをおこないます。
■前提条件
- ✅売却額:3,000万円
- ✅取得額:1,700万円
- ✅譲渡費用:300万円
- ✅所有期間:10年
それぞれの特例で課税される金額を計算していきましょう。
① 特定の居住用財産の買換え特例を利用した場合
まず、特定の居住用財産の買換え特例の適用を受けた場合をみていきましょう。
- ✅譲渡所得:3,000万円−(1,700万円+300万円)=1,000万円
- ✅課税所得税:1,000万円×20.315%=203.15万円
- ✅特例の適用:売却した年の課税所得税は0円
⇒課税所得税203.15万円は新たに取得した不動産の売却時に繰り延べされる
課税所得は1,000万円ですが、特例の適用により売却した年の課税は先送りされ、納付する税金は0円となります。
ただし、買い替えた住居を将来売却する際に、繰り延べした課税所得税203.15万円を納付しなければなりません。
特定の居住用財産の買換え特例は、繰り延べできる所得金額に上限設定はありません。したがって、売却益が3,000万円控除特例では控除しきれない額になり、買い替えた自宅を売却する予定がない場合には、この特例を利用する価値があるといえるでしょう。
② 3,000万円控除特例を利用した場合
つぎに、3,000万円控除の特例を適用した場合を考えます。
- ✅譲渡所得:3,000万円−(1,700万円+300万円)=1,000万円
- ✅特例の適用:譲渡所得から3,000万円までを控除するため課税所得は0円
⇒課税所得税は全額免除
譲渡所得が1,000万円であるため全額控除され、課税される税金も0円となります。
不動産の売却益が3,000万円以下であれば、特定の居住用財産の買換え特例よりも、税金が全額免除される3,000万円控除特例を利用するべきでしょう。
(2) 不動産売却で損をした場合
一方で、マイホームを売却時に損失が出た場合には、「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を活用することで税負担を軽減できます。
譲渡所得がマイナス、つまり譲渡損失が発生したときの節税効果をみていきましょう。
■前提条件
- ✅売却額:1,000万円
- ✅取得額:1,700万円
- ✅譲渡費用:300万円
- ✅所有期間:10年
- ✅その他の所得:500万円(給与所得)
- ①譲渡所得(譲渡損失):1,000万円−(1,700万円+300万円)=マイナス1,000万円
- ②譲渡所得税:損失発生のため0円
- ③特例の適用:給与所得500万円から譲渡損失分を相殺
⇒所得0円となり、所得税・住民税が0円
譲渡損失が1,000万円、給与所得が500万円であれば、2年間分の給与所得が全額控除できることになります。
給与所得が500万円の場合、発生する所得税と住民税は年間約107万円です。
すなわち、1,000万円の譲渡損失によって、2年間で214万円の税金を節税できる計算になります。
不動産の買い替えはアルファに相談
不動産の買い替え時には、自分のケースに適した特例や優遇措置を利用しなければ、支払わずに済んだはずの税金が課税される恐れがあります。
もっとも節税できる方法で不動産の買い替えをしたいときは、不動産のノウハウを豊富にもつアルファのFP(ファイナンシャルプランナー)への相談がおすすめです。
アルファでは、節税につながる不動産の買い替え方法だけでなく、ライフプランを踏まえた買い替えのタイミングも含めて、お客様ごとの最適解を導き出してアドバイスさせていただきます。
高額な取引となる不動産売買だからこそ、お金のプロであるFPに相談することで得られる利益や節税効果は大きくなります。
買い替えの計画を立てる前に、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
不動産の買い替え特例としては、マイホームの売却益が出た場合と売却損が出た場合、それぞれに使える2つの特例があります。
特定の居住用財産の買換え特例は、売却益に課される税金の支払いを繰り延べできる特例です。
ただし、売却益が3,000万円までの場合、マイホームの売却時に使える3,000万円控除特例のほうが節税に有利なケースも多いでしょう。
これらの特例を使わずに、新たに取得した自宅で住宅ローン控除を受けるほうが節税できる可能性もあります。
また、マイホームの売却損が出た場合は、居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例によって給与所得などとの損益通算が可能です。
特例は併用できないものが多く、節税効果を高めるためには売却益の金額や状況によって利用する特例をチョイスしなければなりません。
お金や不動産において幅広い知見をもつアルファのFPに相談することで、自分のケースではどの特例を利用すべきかが適切に判断できるようになるでしょう。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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