医療費控除の確定申告する方法は?計算方法や必要な書類を分りやすく解説
病気やケガで病院にかかる際、「医療費が思いの外高額で驚いた」「医療費が増えてしまって家計に負担がかかる」という経験は少なくありません。
こうした状況に対処する手段として、医療費控除という制度があります。
そこで、今回の記事では医療費控除の基礎知識から、医療費控除の手続き方法、実際に手元に戻る金額の計算方法などを分かりやすく解説します。
医療費がかかった方はもちろんのこと、将来的に医療費がかかる可能性がある方も、ぜひ最後までご一読ください。
医療費控除とは
医療費控除は、1年間に支出した医療費が10万円(総所得金額が200万円未満の場合:総所得金額の5%)を超えた場合に受けることができる所得控除の一種です。
医療費控除の適用対象となる場合、確定申告を行うことで還付金を受けられます。
医療費の控除を所得税の確定申告で申請すると、所得税だけでなく住民税の負担も軽減されます。
住民税を減免するために別途での申請が必要ありません。ただし、確定申告をするとすぐ住民税に反映されたり、還付されたりするのではなく、住民税に実際に反映されるのは、翌年6月からです。
医療費控除の制度は、自分自身だけでなく、離れて暮らしている扶養家族の医療費も含めて計算することが可能です。
なお、医療費控除には治療費だけでなく、通院交通費や医療費控除対象となる薬代も含まれます。
年末調整では医療費控除を適用できないため、サラリーマンも確定申告を行う必要があります。
(1)医療費控除を受ける適用条件
医療費控除を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
(1)納税者が、自己または自己と生計を一にする配偶者やそのほかの親族のために支払った医療費であること。
(2)その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること(未払いの医療費は、現実に支払った年の医療費控除の対象となります。)
医療費控除は、納税者自身または「生計を共にする」配偶者、および扶養親族の医療費に対して支払った額が対象となります。
生計を一にする家族であれば、家を離れた子どもの医療費もまとめて計上でき、確定申告を行えば、給与所得者や個人事業主など、働き方の異なるすべての人が控除を受けることができます。
毎年2月中旬になると、「医療費のお知らせ」が健康保険組合から送られてきます。
その中に医療費控除の対象となる金額が明記されていますので、参考にしてください。
(2)医療費控除の対象となるもの
医療費の控除対象となる費用は、一般的な支出を著しく超えない範囲に限定されています。
医療費控除の適用対象となる具体例は、以下の通りです。
- ✅医師や歯科医師による治療費用や入院費用
- ✅医師の送迎費用
- ✅治療や療養に必要な医薬品の購入費
- ✅入院時の食事代
- ✅通院に関連する費用(自家用車での通院に伴うガソリン代や駐車代金は除く)
- ✅はり師、きゅう師、柔道整復師などによる施術費用(治療に直接関係ないものは除く)
- ✅介護保険制度で提供された施設や居宅サービスの自己負担額
- ✅通常必要とされる医療器具の購入費やレンタル料(コルセットや補聴器など)
- ✅妊娠後の定期検診、検査、通院費用、出産費用
- ✅出産時の入院に伴うタクシー代
- ✅年齢や目的に基づく歯科矯正費用
医師や歯科医師による治療費、入院費用、入院中の食事代、通院費などは、医療費控除の対象になります。
妊娠や出産は病気ではないため、健康保険の対象外ですが、出産費用は医療費控除の対象となります。
妊娠の定期検診や出産後の検診費用、さらに不妊治療、人工授精の費用についても同様に医療費控除の対象です。
また、医療機関で支払った治療費・薬代は、保険外診療でも対象となります。
歯科治療においては、インプラントも含め、金やポーセレン(セラミック)など一般的な治療材料を使用した場合、これらの歯の治療費も保険外診療であっても医療費控除の対象です。
また、歯列矯正で医療費控除の対象となるのは、審美目的ではなく、医療上歯列矯正が必要と認められる場合に限ります。
通常の健康診査、例えば人間ドックなどは疾病の治療を含まないため、これらの健康診査にかかる費用は医療費控除の対象外となります。
なお、病院への通院に伴う交通費については、電車賃やバス代は医療費控除の対象です。
タクシー代は、体調などによりタクシーを利用する必要がある場合、医療費控除の対象となります。
ただし、自家用車を使用して通院し、かかるガソリン代や駐車場代は医療費控除の対象外です。遠方の病院に通院するケースでは、その病院を受診する必然性が説明できない場合、医療費控除対象外となります。
同様に、里帰り出産に伴う帰省時の交通費、タクシーによる通院も、緊急性が認められなければ申請できないため、ご注意ください。
(3)医療費控除を受ける対象期間
適用を受ける年の1月1日〜12月31日に実際に支払った医療費が対象です。
未払いの医療費がある場合でも、支払った年が対象となります。確定申告の義務がない人、たとえば年末調整を行っている会社員は、医療費の支払いをした年の翌年1月1日から5年以内に申告が可能です。
医療費控除を申請する時の流れ
医療費控除の申請手順について、5つのステップに分けて解説します。
(1)医療費控除の対象となる医療費なのかを確認する
医療費控除には、原則として、1年間に実際に支払った医療費が10万円以上、または総所得金額の5%のどちらか低い金額であることが条件です。
また、生計を共にする家族全体の医療費について確認します。
通常、健康保険組合からは、「医療費通知」、「医療費のお知らせ」といった書類が提供されるため、これを参照して自身の医療費の合計を確認できます。
さらに、医療費通知などに記載されていない費用が、病院への通院に伴う交通費などです。
これらの追加の費用を合算した金額が医療費控除の対象となるため、これらも申告対象となります。
(2)医療費控除の対象となる医療費を計算する
「実際に支払った医療費の合計額」-「保険金等で補てんされる金額」-10万円(※) |
医療費控除の計算方法は、以下の計算式に基づきます。
(※)総所得金額等が200万円未満の場合:総所得金額等の5%
保険金等で補てんされる補填金は、たとえば出産育児一時金、高額療養費、医療保険の入院給付金・手術給付金などです。
なお、医療費控除の上限金額については、200万円までとなっています。
【計算例】
- ✅総所得金額:300万円
- ✅支払った医療費合計額:100万円
- ✅医療保険で受け取った給付金:20万円
- ✅100万円-20万円-10万円=70万円
医療費控除額は70万円となります。
実際の還付額は、所得税率をもとに算出します。
国税庁の所得税の速算表を見ると、総所得金額が300万円の場合は10%です。
(3)確定申告書と医療費控除明細書を作成する
医療費控除を申請する際には、確定申告書・医療費控除明細書が必要です。
2017年以降、領収書の提出は不要になりましたが、医療費控除の明細書が必要となりました。ただし、領収書については、自宅で5年間保管してください。税務署が要請した場合には、提示または提出が必要です。
①確定申告書
確定申告書の入手方法は、主に以下の3つがあります。
- 国税庁ホームページからダウンロード
- 税務署で直接受け取る
- 税務署から送付してもらう
国税庁HP「確定申告書等作成コーナー」では、画面の案内に従って、金額などを入力するだけで、簡単に申告書や決算書を作成し、e-taxを通じて送信できます。
さらに、自動計算されるため計算ミスの心配はありません。
また、確定申告ソフトfreeeなどe-tax対応ソフトは、ステップに従って必要事項を入力するだけで、確定申告書や青色申告決算書を自動作成できるのでカンタンです。また、銀行口座やクレジットカードと自動連携ができるなど、多様な機能がサポートされています。
②医療費控除明細書
医療費控除に関する明細書は、税務署で入手するか、国税庁ホームページの「医療費控除の明細書」ページでダウンロード可能です。
医療費の領収書は、2017年から提出が不要ですが、これらの書類は5年間保管しておきましょう。
公共交通機関の領収書の受け取りが難しい場合は、メモに日付、金額、人数などを記録しておくと、メモが領収書の代用になります。
(4)税務署に上記書類を提出する
医療費控除の申請書類は、e-taxを通じてのオンライン申告、郵送、または税務署の窓口に直接提出のうち、いずれかの提出方法で提出します。
パソコン操作に慣れている方にとっては、24時間いつでも利用できるe-taxが便利です。
e-taxでの申請方法には、マイナンバーカード方式、ID・パスワード方式の2つの選択肢があります。
ID・パスワード方式を選択する場合は、別途税務署での対面による本人確認や「ID・パスワード方式の届出」などの手続きを行います。
一方で、「マイナンバーカード方式」の場合は、別途マイナンバーカードを取得しておく必要があります。
2023年(令和5年)から、e-taxにログインする際には、マイナンバーカードを1回読み取るだけでOKです。さらに、e-tax(マイナンバーカード方式)との連携により、スマートフォンからの申請が可能となりました。
(5)医療費の還付を受ける
還付金の受け取り方法には、2つあります。まず、最寄りのゆうちょ銀行か郵便局で直接受け取る方法です。もう一つは、指定の預貯金口座へ振り込みしてもらい受け取る方法です。
振り込みを希望する場合は、確定申告書に還付先口座の詳細を記入する必要があります。
ただし、記入可能な口座は、還付申告者本人名義の口座に限られるため、慎重に選択してください。
また、一部のインターネット専用銀行では、還付金の振り込みが制限されることもあります。そのため、ゆうちょ銀行、都市銀行、地方銀行などの銀行口座を選択しましょう。
還付金の支払い時期は、申請した時期によって異なります。2〜3月は特に申請が急増する時期のため、支払い処理が遅れる可能性があります。
早期に還付金を受け取りたいのであれば、2月中の申告か、e-taxによる申告がおすすめです。
なお、住宅ローン控除と併用で受ける人は申請するときの注意点がありますので、詳しくは下記記事を参照にしてみてください。
確定申告で医療費控除を受けるために必要な書類
必要な書類を確認しておきましょう。それぞれの書類について説明します。
(1)確定申告書
2023年(令和5年)の確定申告から、2022年(令和4年)以前に使用されていた確定申告書Aは廃止され、新しい申告書が導入されました。
ただし、2021年以前の確定申告については、従来通り確定申告書A・Bの書式を使用することができます。
書き方は、こちらの記載例を参考にしてください。
新しい形式の確定申告書は、第一表と第二表がありますが、どちらも必要な項目を記入し、2枚とも提出します。提出期間は、原則、確定申告する年の翌年2月16日~3月15日です。
(2)医療費控除明細書
医療費控除の手続きにおいて、以前は確定申告書へ領収書やレシートの添付が求められましたが、平成29年からは提出書類が簡略化され、「医療費控除の明細書」の提出だけで良くなりました。
ただし、領収書は個人で5年間保存する必要があります。また、支払いの領収書やレシートの代わりに、医療保険者から交付された医療費通知より合計額を転記することが認められました。
(3)医療通知書
医療費通知は、保険者が保険診療に関連して医療機関などからの請求をもとに、窓口で負担した金額を計算し、その情報をお知らせする手続きです。
医療費通知書には、受診者の氏名、医療機関の名称、支払った医療費の金額、健康保険組合の名称などが記載されています。
なお、確定申告時には、この医療費通知書を添付することで、医療費控除明細書の詳細な部分の入力を省略することができます。
(4)本人確認書類
確定申告書の提出時に、本人確認書類として、マイナンバーカードが必要です。
まだマイナンバーカードを所持していない場合は、「通知カード」または「住民票の写しまたは住民票記載事項証明書」のいずれかと、身分証明書(※下記のいずれか)が必要です。
- ✅運転免許証
- ✅公的医療保険の被保険者証
- ✅パスポート
- ✅身体障害者手帳
- ✅在留カード
- ✅税務署からの「確定申告のお知らせ」(※お持ちの方)
※なお、令和元年4月1日以降、給与所得者については、給与所得の源泉徴収票の添付や提示の必要がなくなりました。ただし、確定申告書の作成時には必要ですので、税務署等を訪れる際には必ずお持ちください。
セフルメディケーション税制とは?
医療費控除の条件を満たさない場合でも、市販薬の購入額に対して控除を受けられる「セルフメディケーション税制」という制度を利用できるケースがあります。この制度について紹介します。
(1)セフルメディケーション税制とは?
医療費控除は、過去1年間に支払った医療費が10万円を超えた場合、医療費控除の制度が適用され、超過分が所得税から差し引かれ、税金が還付または減額される制度であることは理解できました。
しかし、健康状態が良く、医師の診察を受ける機会が少ない場合、医療費控除を活用できるほど医療費の支払いがない方も多いでしょう。
そうした方でも、軽い体調不良などでOTC医薬品(※)をよく利用される場合、医療費控除の特例として、2017年1月からセフルメディケーション税制が開始しました。
この制度を利用すると、一定の要件を満たせば確定申告により所得税と復興特別所得税が還付されることがあります。
具体的な条件として、対象市販薬の1年間の購入費用が12,000円以上で、さらにその年には会社の健康診断、自治体のメタボ健診を受けている必要があります。
この制度は、個々の健康管理を促進すると同時に、軽度の症状に対して市販薬を使用することで、セルフケアを奨励しようとする国の取組です。
(※)OTC医薬品は、通常、一般用医薬品と要指導医薬品の2つに分類され、これらは薬局やドラッグストアで入手可能です。
一般的に市販薬として知られています。また、医師が処方する医療用医薬品の中で、副作用が少なく安全性が高いものが、市販薬(OTC医薬品)として再分類され、「スイッチOTC医薬品」と呼ばれます。
(2)受けるときに必要な書類は?
セルフメディケーション税制を利用する際の必要書類は、下記のとおりです。
①セルフメディケーション税制を適用し計算した確定申告書
②セルフメディケーション税制の明細書
※対象医薬品を購入した際の領収書(レシート)及び一定の取り組みを行ったことを明らかにする書類は、自宅で5年間保管する必要があります。 <一定の取り組みを行ったことを明らかにする書類>・インフルエンザの予防接種又は定期予防接種(高齢者の肺炎球菌感染症等)の領収書又は予防接種済証・市区町村のがん検診の領収書又は結果通知表・職場で受けた定期健康診断の結果通知表・健康診査の領収書又は結果通知表・人間ドックやがん検診をはじめとする各種健診(検診)の領収書又は結果通知表「勤務先(会社等)名称」「保険者名(ご加入の健保組合等の名称)」が記載されている必要があります。
生命保険料控除とは別で控除が受けられる
医療費の控除においては、保険金を受け取った場合には、かかった医療費からその保険金分を差し引いて申請しなければなりません。
保険金が差し引かれますが、支払った保険料は生命保険料控除として申請可能です。
確定申告時には、医療費と同じく所得控除欄に該当します。生命保険料控除を受けるためには、保険会社の控除証明書が必要ですので、忘れずに手元に用意しておきましょう。
税金を抑えたい人はFPに相談
節税対策については、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談できます。
FPへの税金対策相談でよくある質問には、「医療費控除や住宅ローン控除による所得税の還付方法は?」や、「ふるさと納税についての詳細」などがあります。
また、日本政府が副業を奨励している影響で、ネットビジネスを始める人が増えており、「青色申告や青色申告特別控除に関する情報が欲しい」といった相談も増加しているようです。
ご自身の状況によって最善策が異なりますので、間違った節税をしたくない方は、ぜひ一度FPに相談してみてください。
まとめ
医療費控除は、適切に申告することで税金を軽減し、所得税還付を受けられる可能性があります。申告する際には、対象となる費用や仕組み、要件を正確に理解することが不可欠です。
また、セルフメディケーション税制は医療費控除と併用できないため、確定申告前にどちらがより大きな控除をもたらすかを認識することが重要です。
少子高齢化が進み、後期高齢者の医療費自己負担率が引き上げられるなど、将来的には医療費負担が増加する可能性があるため、医療費控除の詳細をしっかり理解しておきましょう。
ぜひ本記事の内容を参考にし、医療費控除を効果的に活用してください。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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