年110万円以内の贈与は非課税!追加課税にならないための注意点も解説
日本の贈与税は、個人からの贈与により取得した財産の価額を基に課される税金で、贈与税は財産を無償で譲り受けた者(受贈者)が納税義務者になります。
この贈与税ですが「年間110万円まで税金がかからない」と聞いたことがあると思いますが、場合によっては課税される可能性があることをご存知でしょうか。
本記事では、贈与税の110万円以内という仕組みを理解し、追徴課税にならないための注意点を解説します。110万円の非課税贈与の活用を検討されている方は、ぜひ最後までお読みください。
そもそも110万円贈与とは?基礎控除の基礎知識
よく聞く「110万円までの贈与は非課税」という話ですが、うろ覚えで勘違いしていると思わぬ失敗をしてしまうことがあります。
まずは贈与税で言うところの「110万円」と何なのか、その基礎知識をしっかり覚えておきましょう。
(1)110万円は年間の贈与額の基礎控除である
日本の贈与税は、相続税を補完する意味合いが強く、極端にいえば生前贈与による相続税回避を防止するための税金です。
その贈与税は、受贈者が無償でゆずりうけた財産に課税されるのですが、ここまでの範囲であれば課税されない基礎控除額が定められており、その金額が110万円となっています。
贈与税が課税されるのは、個人から贈与を受けた財産に対してなので、法人から贈与を受けた場合にはこの基礎控除は関係ありません。
法人からの贈与財産は、法人と個人間に雇用関係があれば「給与所得」として、雇用関係がなければ「一時所得」として所得税が課税されます。
(2)110万円は贈与を受ける人の年間控除額である
贈与税の110万円という基礎控除額は、贈与を受ける人が1年間に受け取った総額から差し引く金額です。
贈与税は、毎年1月1日から12月31日までの贈与財産にかかる暦年課税となっているので、この期間の総額が判断基準です。
贈与ごとの控除ではなく、贈与を行った人ごとでもない点には注意が必要で、例えば父親と祖母から100万円ずつ贈与を受けた場合、受け取った財産は合計200万円となり、そこから基礎控除額110万円を差し引いた90万円に贈与税が課税されます。
1年間にもらった贈与財産が110万円の基礎控除額以内であれば、贈与税の申告義務はありません。
(3)贈与を受けた場合の贈与税の計算方法
個人から贈与を受けた場合の贈与税ですが、年間に贈与された金額の合計を基に以下のような計算方法で算出されます。
贈与税額=年間に贈与された合計額-基礎控除額(110万円)×税率-控除額
贈与税に関してよく言われることですが、相続税と比べ累進税率が急に上昇するため、税額も高くなります。
これは相続税における被相続人(亡くなった方)の立場で考えれば、一生に一度で自由の利かない相続より、いつでも誰にでも財産を渡せる贈与を野放しにすると贈与税の公平性が崩れてしまうためです。
贈与税の税率は、18歳以上の人(2022年3月31日以前の贈与は20歳)が祖父母や父母などの直系尊属からもらう場合の「特例贈与」と、それ以外の「一般贈与」に分かれ、次の通りです。
- ✅一般贈与
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
- ✅特例贈与
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
尚、18歳以上の方が、配偶者と自分の親の両方から贈与を受けた場合など、一般贈与と特例贈与の両方がある場合があると思います。
そのときの贈与税の計算は、すべての財産を一般税率と特例税率で計算した税額に、一般贈与財産と特例贈与財産それぞれの占める割合を掛けて計算し、その合計額が贈与税額になります。
贈与税がかかる場合、贈与があった年の翌年2月1日~3月15日までに申告と納税をする必要があります。
毎年110万円以内の贈与をしても非課税
贈与税の110万円という基礎控除は、毎年与えられる法律で定められた納税者の権利なので、毎年110万円以内の贈与をしても非課税です。
多くの場合、毎年贈与税の基礎控除額を有効利用した「暦年贈与」という相続税対策に利用されています。
どうしても相続税対策と聞くと、どことなく後ろめたさを感じてしまいそうですが、やり方さえ間違わなければ税務署に文句を言われる筋合いのものではありません。
毎年110万円以内の贈与をして課税される場合がある
先ほど「毎年110万円以内の贈与であれば非課税」と説明しましたが、やり方や贈与の実態によっては110万円以内の贈与であっても課税されるケースがあります。
ここでは、110万円以内の贈与なのに、贈与税が課税されてしまう「定期贈与」という考え方について説明します。
(1)贈与を分割する「定期贈与」とは
通常であれば1年間に受け取った贈与財産が110万円以下であれば、基礎控除額に収まるので課税されません。
しかし贈与の実態を調べてみると、あらかじめ贈与する総額がすでに決まっていて、毎年渡している金額はその分割払いに過ぎないケースが見られます。
例えば親から子へ1,000万円を贈与することが決まっていて、それを10年間に100万円ずつ渡していればいっけん基礎控除額内に収まって非課税のような気がします。
しかし国税庁サイドからみると、この実態は1,000万円の贈与の分割払いとみなされ、贈与は1,000万円だったとみなされてしまい、これを「定期贈与」と呼びます。
定期贈与かどうかの判断は、あげる総額があらかじめ決まっているかどうかなので、それが決まっていなければ基本的に問題ありません。
ただ税務調査などでは疑われやすい贈与パターンなので、とくに長い期間をかけて暦年贈与する場合は、対策を考えておいた方が良いでしょう。
(2)定期贈与をみなされないようにするには
あらかじめ贈与額の総額を決めていなくても、毎年110万円の贈与を続けていれば定期贈与を見られる恐れがあります。
税務署から定期贈与と疑われないための対策として、以下のような方法がありますが、より確実に回避したいのなら複数の方法を組み合わせると良いでしょう。
- ✅贈与のたびに贈与契約書を作成しておく
- ✅毎年異なる金額を贈与する
- ✅毎年異なる時期に贈与する
また定期贈与とみなされないため、あえて110万円を少し超える贈与を行い、贈与税の確定申告をするという方法もあります。
例えば、ある年に120万円を贈与すれば基礎控除を引いた10万円が課税対象になり、10%にあたる10,000円の相続税がかかります。
しかし確定申告をしておくことで、その年の前後と違った贈与を行ったという証拠を残すことができます。
どの方法をとるにしても、契約書や申告書に記載した金額を現金手渡しなどではなく銀行振込で、贈与者から受贈者へ確実に移しておくことが大前提です。
他に贈与税が課税される2つのケース
定期贈与だけ対策していても、他にも贈与税が課税されるケースがありますが、これは世の中の贈与のほとんどは「親族間の贈与」であり、「相続税対策が絡んでいる」からです。
では、贈与を最大110万円という基礎控除内に収めていても、税金が課税されてしまう2つのケースについて考えてみましょう。
(1)贈与を受ける人の名義口座に贈与するケース
定期贈与とは違っていますが、祖父母が子供や孫などの名義の預金口座を作って、そこへ毎年せっせとお金を積み立てているような話を聞いたことはないでしょうか。
通帳や印鑑などは祖父母が管理しているこのような預貯金は、「名義預金」とみなされてしまい、贈与をしたとは認められなくなってしまいます。
つまり110万円の基礎控除を受けられることもなく、あくまで名義を借りただけの祖父母の預金という扱いです。
このようなケースでは、贈与がなかったことになるので相続発生時に相続財産とみなされてしまい、相続税の課税対象となってしまいます。
国税不服審判所の裁決事例でも非常に多く、資産管理の実態からほとんどのケースで納税者側が敗れています。
名義が違えば大丈夫などと安易に考えていては、お孫さんのためにと思って貯めていた努力も無効とされてしまうのです。
こうならないためのポイントは、定期贈与とみなされないための対策と同じことをしておくことです。
(2)贈与する人が亡くなる前3年以内のケース
暦年贈与は、相続税対策で利用している人が多いのですが、亡くなる直前の駆け込み的贈与を防ぐために、被相続人が死亡する前3年以内の贈与については、相続財産に戻して相続税を計算するというルールがあります。
つまりこの期間は贈与がなかったことにされるので、基礎控除の110万円も適用されないことになります。
これを「持ち戻し」というのですが、後で解説するとおり2023年度税制改正で、持ち戻しの期間が3年から7年に延長されることになりました。
2024年に適用される生前贈与の変更点
2023年度税制改正では、贈与税や相続税に関する大きな変更があり、インパクトの大きな改正内容となりました。
とくに両親や祖父母の財産を早期に子供や孫に移させて消費を拡大させるため、相続時精算課税制度の使い勝手が良くなったことがポイントです。
ここでは生前贈与に関する変更点に絞って、その内容を確認することにします。
(1)年110万円以内なら相続税も贈与税もかからない
相続対策として生前贈与を行うには、毎年コツコツ贈与を行う暦年贈与か、相続税の課税対象になるものの2500万円まで贈与時の非課税枠がある相続時精算課税制度を利用するかのどちらかです。
このうち暦年贈与に関しては、先ほど解説したとおり相続開始前3年(2024年以降の贈与については7年)に贈与した分は、贈与はなかったものとして相続税の課税対象額に入れる必要があります。
しかし相続時精算課税制度を選択すると、2024年以降に贈与した財産のうち110万円以内の金額は、相続税も贈与税もかかりません。
(2)生前贈与加算は3年から7年に延長
先ほど少し触れましたが、相続開始直前の贈与が相続財産に含まれる「持ち戻し」の期間に改正がありました。
2024年以降に贈与された財産については、相続開始前7年間分が加算されることになるので、2031年1月1日以降に相続が開始されるときには7年分の加算になっています。
なお延長された4年間の加算額のうち100万円は加算の対象外とされました。
(3)相続時精算課税制度に110万円の控除が追加
相続時精算課税制度を利用すると、持ち戻しによる相続財産の加算がないことは説明しましたが、これは相続時精算課税制度に110万円の基礎控除枠が創設されたからです。
これまで相続時精算課税制度を選択すると、小額の贈与でも確定申告する必要がありましたが、2024年以降の贈与から110万円の基礎控除額以内であれば申告は不要になります。
また相続時精算課税で受贈した一定の土地または建物が災害によって被害を受けた場合、相続時に建物や土地評価額を再計算できるようなりました。
(4)教育資金などの一括贈与の特例期間を延長
祖父母などの直系尊属から30歳未満の孫などへ教育費を資金援助した場合に、一定の要件により受贈者1人につき1,500万円まで贈与税が非課税となる措置が、3年間延長され2026年(令和8年)3月31日までとなりました。
また祖父母・父母などの直系尊属から、18歳以上50歳未満の子ども・孫などへ結婚・子育て資金を贈与した場合、一定の要件により受贈者1人につき、1,000万円まで贈与税が非課税となる措置も、2025(令和7)年3月31日まで2年間延長されています。
参照:金融庁「令和5(2023)年度税制改正について」
間違った節税方法をしたくない方はFPに相談
贈与税は遺産相続と密接な関係がある税金で、親子間だけではなく夫婦間も含めた家族全体トータルで節税効果のメリットを検討する必要があります。
そのため法定相続人を把握したうえで、残される家族の将来的な生活を考え節税対策を講じておくことが大切です。
相続税や贈与税の資産課税は、所有資産の中身と金額によっては非常に複雑な計算が必要で、不動産相続など関係する場合は税理法人などを活用ください。
また早いタイミングから準備をするのであれば、相続トラブルを避けるため遺産分割を想定した遺言書の作成や、パターン別にデメリットやリスクを具体的かつ効果的に軽減させることが重要です。
そこで間違った節税方法をしたくない方は、残された家族のライフプランまで具体的な提案をしてくれるFPに相談してみることをおすすめします。
信頼できるFPであれば、贈与や相続専門の税理士や、遺贈などに強みをもつ弁護士事務所との連携もうまく取れるでしょう。
また相続などまだ先のことだと思っている人も多いと思いますが、対策は早いうちから取っておくべきものになりますので、ぜひ今のうちから情報収集だけでもしておきましょう。
まとめ
年110万円まで非課税となる贈与税ですが、それだけ単発で考えていると思わぬ税負担が発生することがあります。
たいていの場合は、110万円という贈与税の基礎控除を相続税対策の一環として有効活用したい人がほとんどでしょう。
余計な税負担を避けるためには、専門家などの意見も参考にしながら、時間をかけたしっかりとした対策を考えることが何より重要です。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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