手取りと額面の違いは?FPが手取りの計算方法と増やす方法を教えます
皆さんは収入に関する言葉で「手取り」や「額面」と聞いたことがあるでしょう。
社会人としての経験が長い方であれば「何を今さら」と思うかもしれませんが、その違いをよく分かっていない方もいらっしゃるようです。
そこで本記事では、自分の収入の何が手取りで何が額面なのか、その計算方法や使える金額を増やす方法を徹底解説します。手取り金額の計算方法が分からない方、手取り金額を増やしたい方は、ぜひ最後までお読みください。
額面と手取りの違いは?
まずは基本中の基本となる、給与や収入についての説明で使われる「手取り」と「額面」の違いについて説明します。
言葉の意味することは、それほど難しいことではないのですが、これを正しく理解していないと求人情報などを見誤ることになるでしょう。
それぞれの言葉の意味と、それらがどのような場面で用いられるのかを見ていくことにします。
(1)額面とは?
給与でいうところの「額面」とは、会社から支払われる給与や手当の総額で、各種控除を引かれる前の金額です。
よくある給与の支給内訳では、基本給に加え様々な手当てや通勤費、そして残業手当などが記載されていて、その合計が「総支給額」欄に記載されています。
よく見られる支給内訳は下記のような項目です。
基本給 | 給与計算の基本となるもので、会社ごとに規定で定められていることが一般的です。 また賞与の算定のもとになるのが基本給なので、勤め人にとって一番重要な支給項目といえます。 |
残業代等 | 法定労働時間を超えた残業時間や深夜勤務(22時以降翌朝5時まで)に対する割増賃金です。 一般的に「時間外手当」「時間外労働手当」といわれているものです。 最低の割増率は法律で定められていますが、会社が時間外労働をさせるためには労使の協定が必要になります(三六協定)。 |
勤怠控除 | 勤怠控除とは支給欄にありますが、欠勤や遅刻をしたときに差し引かれる金額です。 働かなかった時間に対する給与は支払わなくてもよく、これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。 |
通勤手当 | 会社へ通うための通勤費ですが、支給は義務付けられていません。 限度額内は所得税が非課税になり、これは実費弁済という考え方に基づいたものです。 |
各種手当 | 手当の種類は会社ごとに決めるもので、役職手当、資格手当、営業手当、皆勤手当、住宅手当などさまざまです。 扶養家族の数に応じて支給される家族手当などは、近年廃止される事例が多くなっています。 手当の詳細については、勤務先の就業規則を確認することで |
この金額が「額面」といわれるもので、実際に振り込みなどで手元に入ってくる金額と違うはずです。
これらの金額のうち、非課税となる交通費を除き、全てが所得税・住民税の課税対象額となります。
年間で考えれば、月々の総支給額に加えボーナスの総支給額も「額面」に入り、年末調整後にもらう源泉徴収票の「支払金額」欄の金額がこれに該当します。
求人などに書かれている年収や月収の条件や、ローンの申し込みなどで自己収入欄に記載する金額は、一般的に「額面」のことを指します。
(2)手取りとは?
「額面」は会社があなたに支払う給与・手当の総額ですが、「手取り」はあなたの手元に入ってくる金額のことです。
これも給与明細を例にすると分かりやすいのですが、総支給額が最後に記載してある「支給」欄に続いて、「控除」という欄があるでしょう。
「控除」に記載されているものは、総支給額から引くべき項目で、法律で給与から控除(天引き)することが定められている「法定控除」と、労使間の合意により控除される「その他の控除」です。
総支給額からこれらの控除金額を引いた金額が、手取り額であなたが使える金額になります。
引かれる金額のうち、法定控除の項目は次のとおりです。
健康保険料 | 病気やケガなどの時に備えて給付が行われるための保険制度で、勤め人の場合は次のいずれかの被保険者となります。 協会管掌健康保険(協会けんぽ)・・・中小企業の従業員やその家族組合管掌健康保険(健康保険組合)・・・大企業の従業員やその家族共済組合・・・公務員や私立学校の教職員とその扶養家族 協会けんぽの保険料率は都道府県ごと、健保組合の保険料率は健保組合ごとに決まっています。 保険料は労使が折半して負担していて、総負担額がいかに大きいか理解できるでしょう。 |
介護保険料 | 介護保険料は、医療保険に加入している40歳以上65歳未満の従業員が負担し、介護保険制度の原資になっています。 |
厚生年金保険料 | 厚生年金保険は国が定めた公的年金制度で、老後の生活保障を目的とした「老齢年金の給付」や、従業員が死亡した時遺族に支払われる「遺族年金」など、従業員とその家族の生活の安定を保障することを目的とした保険制度です。 原則として会社や組織に勤めている会社員や公務員など、雇用されている方が加入します。 |
雇用保険料 | 労働者が失業時や雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に、失業手当を受けることができる制度が雇用保険です。 雇用保険料率は業種によって決まっていますが、コロナ給付による財源不足から2023年4月から料率が0.5%から0.6%に上がりました。 |
源泉所得税 | 源泉所得税とは、給与などの所得を支払う者が、毎月支払金額から差し引いて国に納付しなければいけない税金です。 控除される税額は、総支給額から社会保険料等を差し引いた金額と、扶養家族の人数で決まっています。 国税庁で源泉徴収税額表を公表しているので、 2か所以上から給与をもらっている方の従たる支払先や、日雇い労働者の税額は、違った計算になる点は留意が必要です。 |
住民税 | 住民税は、「市区町村民税と道府県民税・都民税」のことを総称している税金で、1月1日時点で住んでいる都道府県と自治体に納める税金です。 住民税額は、前年の所得に対して自治体ごとの住民税率で課せられる「所得割」と定額を納める「均等割」の合計で算出されます。 |
法定控除で一つ補足すると、住民税は前年の課税所得がない場合課税されないので、社会人1年目のサラリーマンの多くは控除されていないでしょう。
ところが社会人2年目の6月から突如(と思ってしまう)控除され始めるので、手取り金額が大きく減ってしまいます。
これら法定控除とは別の「その他の控除」は、労使協定に基づき給与から引かれるもので、寮費や食費、会社からの借入金の返済や親睦会費などがこれに当たります。
多くの場合、労使協定は会社と労働者の代表により締結されているので、新卒で会社勤めをした方にとっては「給料から勝手に引かれている」ように感じるでしょう。
(3)手取りは大体額面の何割?
最近は日本人のサラリーマンの税額負担率が46%を超えたというニュースがあり、ネットでは「五公五民なんて江戸時代かよ!」なんていう批判も見られます。
これらのニュースは、社会保険料の会社負担分を算入していて決して正しいデータに基づいていないのですが、サラリーマンの負担が大きくなっているのは事実です。
では額面に対して実際に使うことができる手取り金額は、実際のところどれくらいなのでしょうか。
国税庁が発表した「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、2021年(令和3年)の平均年収は443万円となっています。
この443万円が額面だとすると、手取り金額は約338万円になるので、率にすると76.4%ほどになり、頑張った成果の約4分の1が国などに巻き上げられているといえます。
給与収入で最も多いゾーンに限定すると、額面(年収)の75%~85%が手取りといわれているので、それを考えると額面450万円を超えると負担率はそれ以上になることが分かるでしょう。
将来不安を解決するためには、手取り収入を増やすことが重要になっています。
【早見表つき】額面から簡単に手取りを計算する方法
手取り収入は、給与の総支給額から公的な負担を控除された残りの金額なのですが、家計簿でもつけていないと把握するのは簡単ではありません。
では額面から簡単に手取り金額を計算することは出来ないのでしょうか?
先ほども触れたとおり、額面のおおよそ75%~85%が手取り金額といわれているので、年収からおよその手取りが計算できます。
例えば年収の額面が500万円であれば、375万円~425万円が手取りとなるので、ボーナスを考慮しなければ31.2万円~35.4万円が月額の手取り額です。
実際には配偶者・扶養親族の有無や住んでいる場所などで変わってきますが、年収ごと・月収ごとの早見表で大まかな手取りを把握しておきましょう。
前提条件として、会社勤めの独身男性サラリーマン(40歳未満)で所得控除は「給与所得控除」「基礎控除(48万円)」「社会保険料等控除」のみを考慮し、ボーナスは勘案しません。
【年収別による手取り金額一覧表】
年収(額面) | 手取り | 年収(額面) | 手取り |
100万円 | 84万円 | 450万円 | 354万円 |
150万円 | 124万円 | 500万円 | 390万円 |
200万円 | 163万円 | 600万円 | 466万円 |
250万円 | 201万円 | 700万円 | 530万円 |
300万円 | 240万円 | 800万円 | 595万円 |
350万円 | 279万円 | 900万円 | 662万円 |
400万円 | 317万円 | 1,000万円 | 731万円 |
【月給による手取り金額一覧表】
月収(額面) | 手取り | 月収(額面) | 手取り |
10万円 | 8.5万円 | 28万円 | 23.3万円 |
15万円 | 12.6万円 | 30万円 | 25.0万円 |
18万円 | 15.1万円 | 32万円 | 26.6万円 |
20万円 | 16.7万円 | 35万円 | 29.0万円 |
22万円 | 18.4万円 | 40万円 | 32.9万円 |
24万円 | 20.0万円 | 50万円 | 40.9万円 |
26万円 | 21.7万円 | 60万円 | 48.2万円 |
基本的に給与収入が増えるほど所得税率が上がり、社会保険などの負担が重くなるため手取り率は下がっていきます。
こうして見ると額面と手取りのギャップに驚くのではないでしょうか。
手取りを増やすには?
収入における額面と手取りの違いは理解できましたが、昇給もなかなか進まないなか手取りを増やす方法はないのでしょうか。
それが額面と手取りの関係を見ていくと、手取りを増やすためのポイントは控除項目、つまり負担している金額をいかに減らすかにかかっています。
これには全ての人に当てはまる方法と、勤務先の会社によっては当てはまる方法があるので、それぞれについて説明します。
(1)控除項目を徹底する
毎月の給与額などから控除される金額は、ほぼ決まった計算式や賦課額で決定されるので、個人の力で減らすことはできません。
例えば社会保険料は標準報酬月額で決定され、雇用保険料も料率によって計算されるので、これらの負担を減らすことは不可能です。
では所得税や住民税がどうなのかといえば、1年間で考えれば負担を減らす方法がいくつかあります。
確定申告などが必要になるケースもありますが、これらの仕組みを理解して節税することは手取りを増やすため大切な知識です。
サラリーマンが税金を安くするための控除で、比較的利用するケースが多いのは下記のものです。
控除項目 | 詳細 |
生命保険料控除 | 生命保険・介護保険・個人年金保険など、対象となる保険に加入していると控除される保険料控除は、保険に加入していれば誰もが対象となる節税方法です。 一般的には、年末調整時に会社へ控除証明書を提出して計算してもらいます。 |
扶養控除 | 扶養人数により控除額が増える扶養控除ですが、所得の低い親族の申告漏れが見られます。 実態として扶養している事実があるのなら、勤め先に「扶養控除等異動申告書」を提出しましょう。 |
社会保険料等控除 | 扶養控除とも関係しますが、自分の社会保険料だけではなく、親族などの国民健康保険や国民年金を負担していれば、その金額も控除対象となります。 |
医療費控除 | 自己負担した年間の医療費が一定額(10万円もしくは所得金額の5%)を超えた場合に一定額が控除されます。 自己負担額には扶養親族の医療費も含まれ、確定申告することで所得金額から控除され還付を受けられます。 |
iDeCo | iDeCoは、個人型確定拠出年金の略称で、簡単いえば公的年金では不足する老後資金に備えるための積立年金です。 支払った全額が所得控除の対象になり、運用益も非課税になるので非常に節税効果が高い投資商品といえます。 小規模企業共済等掛金控除」の対象になるので、通常は年末調整で控除を受けられます。 |
住宅ローン控除 | 住宅ローンを借入して居住用の新築・中古住宅を購入したり、リフォームをしたりした人が受けられる控除です。 住宅ローン控除は、要件を満たした住宅取得・リフォームをして居住を開始した年の分から適用され、1年目の控除は確定申告が必要です。 住宅ローン控除は税額控除となるので、非常に節税額が大きくなります。 |
上記の所得・税額控除以外で効果が大きいのが、全国の地方自治体へ寄付を行うことで、寄付先の自治体から肉などの返礼品を貰え、同時に節税にもなる「ふるさと納税」です。
寄付する自治体が5か所以下なら「ワンストップ特例制度」を利用するのが簡単ですが、他に確定申告する控除項目がある場合は、特例制度を使えないのが注意点となります。
これらの控除項目を活用することで、当年分の所得税額や翌年分の住民税額が減るので、結果的に使えるお金が増えるメリットになるのです。
もし手続きなどに不安や疑問があるなら、税理士やFPなどノウハウを持っている専門家を利用ください。
サラリーマンが活用できる節税コツについて詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
(2)転職する
額面と手取りの関係で考えれば、額面を増やすことが手取りを増やす近道といえます。
もし勤め先で昇給の希望も持てず、評価されていないと感じているなら、転職して額面を増やす可能性も選択肢の一つです。
ただ転職活動が上手くいく保証はないので、現職での仕事を正確に自己評価し転職サイトなどに登録します。
基本的に額面を増やすための転職なのですが、希望通りの報酬で契約できるハードルは高く、前職より減収になる失敗例が多く見られることから注意が必要です。
また最悪のケースでは、転職先も紹介されず面接すら受けられないこともあるので、安易なイメージは持たない方がよいでしょう。
もし手取り金額を増やすのであれば、一番のネックとなっている社会保険料等の負担を増やさないで済む副業も検討すべきでしょう。
それ以外にも投資などによる資産運用は、税金以外に影響が出ないのでおすすめです。
弊社にてFPの採用を積極的に進めていますので、証券会社などの金融業界、不動産業界から転職を検討されている方は、ぜひご応募ください。
まとめ
最近はインフレの影響からようやく額面が増える傾向が出ていますが、手取り金額はなかなか増えません。
その大きな原因は、少子高齢化を言い訳とした社会保障費負担の増大で、現役世代は青色吐息といった状況です。
しかし手をこまねいている場合ではないので、本記事の内容を参考にして手取り額を増やす取り組みをしてみましょう。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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