退職時確定拠出年金の手続きは転職先によって異なる!手続きの期日も解説
老後の生活に備えて資産を運用するなら、利益が非課税になる確定拠出年金がおすすめです。
節税効果が高く資産運用ができる確定拠出年金ですが、退職すると資格が喪失するのをご存じでしょうか。
確定拠出年金は、資格喪失後に適切な手続きをしないと損をする可能性があるため、注意が必要です。
この記事では、退職・転職時の確定拠出年金の手続き方法や、手続きの注意点について解説しています。
確定拠出年金に加入していて、これから退職の予定がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
確定拠出年金には2つの種類がある
確定拠出年金は、私的年金のひとつです。
3階 | 私的年金 | 確定拠出年金 |
2階 | 公的年金 | 厚生年金 |
1階 | 公的年金 | 国民年金 |
上の表のように、日本の年金制度は、よく建物で例えられます。
表の3階部分にあたる確定拠出年金は、企業や個人が拠出(お金を出す)して資産を運用する制度です。
確定拠出年金には、掛金の負担先に違いがある企業型年金と個人型年金の2種類があります。
以下でそれぞれの特徴を見ていきましょう。
(1)企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業型確定拠出年金は、企業型DCとも呼ばれます。
特徴は、企業が掛金を負担し、従業員自身が運用する制度であることです。
運用する金融商品は企業が選んでくれます。
そのため、企業に勤めながら、気軽に将来の資産を増やすことが可能です。
ただし、企業型DCは導入している会社としていない会社があるため、加入資格があるか会社に確認しましょう。
また、企業型DCの掛金限度額は会社の条件によって異なりますが、限度額より企業負担の掛金が少ない場合、従業員が追加で掛金を負担することが可能です。
このシステムは「マッチング拠出」と呼ばれ、追加で負担した金額はすべて税控除の対象になります。
(2)個人型確定拠出年金(iDeCo)
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、個人で掛金を負担して運用する制度です。
20歳から65歳未満かつ、国民年金を納めている人が加入対象となっています。
そのため、長期間にわたって将来の資産を運用できるのが特徴です。
iDeCoは、勤め先や加入している年金によって掛金の限度額が異なります。
勤め先 (公的年金の加入区分) | 企業年金 | 企業型確定拠出年金 | 掛金の限度額 |
自営業 (第1号被保険者) | ― | ― | 68,000円 |
会社員 (第2号被保険者) | あり | あり | 12,000円 |
なし | |||
なし | あり | 20,000円 | |
なし | |||
公務員 (第2号被保険者) | ― | ― | 12,000円 |
専業主婦など (第3号被保険者) | ― | ― | 23,000円 |
iDeCo(イデコ)に加入するメリット
iDeCoには、さまざまなメリットがあります。
ここでは、iDeCoに加入する4つのメリットについて見ていきましょう。
(1)老後資金になる
iDeCoは、こつこつ積み立てていく資産運用です。
運用次第では、金融機関への預入よりも大幅に資産を増やせるため、早いうちから退職後の資金を準備することができます。
(2)掛金は全額所得控除される
掛金がすべて所得控除の対象になるのも、魅力のひとつです。
そのため、所得税と住民税を抑えながら資産を運用することができます。
(3)運用益は非課税である
運用して得た利益が非課税になるのも大きなメリットです。
株式投資などでは利益に20%の税金がかかりますが、iDeCoでは利益が出ても税金がかからないため、お得に資産を増やすことができます。
(4)掛金を受取る際にも大きな控除を受けられる
年金や一時金として掛金を受取る際に税控除があるのも、メリットのひとつです。
60歳以降の掛金の受取りで年金を選択すれば「公的年金等控除」、一時金を選択すれば「退職所得控除」の適用対象となります。
iDeCo(イデコ)について詳しく知りたい方は、下記記事を参照にしてみてください。
企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入して退職の場合
転職や離職によって、企業型確定拠出年金に加入していた企業を退職する場合、退職後には手続きが必要です。
ここでは、退職後の手続きをケースごとに紹介します。
(1)転職先にも企業型DCがある場合
転職先にも企業型DCがある場合は、転職先の確定拠出年金への加入が可能です。
転職先で企業型DCへの移換手続き(積立金を別の運営機関に移すこと)を行いましょう。
(2)転職先に企業型DCがない場合
転職先に企業型DCがない場合は、企業年金の有無によって手続きが異なります。
転職先に企業年金がある場合は、まずiDeCoに移換し、その後企業年金に移換しましょう。
その場合のiDeCoの掛金限度額は、企業型DCがある場合にiDeCoに加入する場合と同様に12,000円です。
転職先に企業年金がない場合は、そのままiDeCoへの移換手続きを行いましょう。
その際は掛金限度額が20,000円となります。
(3)公務員に転職した場合
公務員には企業年金や企業型DCがないため、そのままiDeCoに移換しましょう。
掛金限度額は12,000円です。
(4)自営業になった場合
自営業者も、公務員と同様に企業年金と企業型DCはありませんので、iDeCoに移換しましょう。
その際の掛金限度額は68,000円です。
(5)無職になった場合
専業主婦(主夫)といった無職になった場合も、iDeCoへの移換手続きを行いましょう。
掛金の限度額は23,000円です。
個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入して退職の場合
個人型確定拠出年金に加入している企業を退職する場合にも、被保険者区分や転職先の年金制度などによって手続きをする必要があります。
以下で、いくつかのケースを見てみましょう。
(1)転職先の企業型DCに加入する場合
転職先に企業型DCがある場合、iDeCoを転職先の企業型DCに移換することが可能です。
移換する場合はiDeCoの加入資格がなくなるため、「加入者資格喪失届」を運営管理機関に提出する必要があります。
また、転職後に企業型DCとiDeCoに同時加入することも可能です。
その場合は、「加入者登録事業所変更届」または「加入者被保険者種別変更届」と、転職先が記入する書類を管理機関に提出しましょう。
その際の掛金限度額は20,000円となります。
(2)転職先の企業型DCに加入しない場合
転職先に企業型DCがない場合は、引き続きiDeCoへの加入が可能です。
その場合は、iDeCoの被保険者区分や登録事業所の変更が必要であるため、上記企業型DCに加入する場合と同じ書類を提出しましょう。
その際の掛金限度額も企業型DCへの加入と同様20,000円です。
(3)確定給付企業年金がある場合
転職先に確定給付企業年金がある場合は、移換できる可能性があります。
転職先の確定給付企業年金への移換ができるかどうかは企業によって異なるため、転職先に確認するのがよいでしょう。
(4)自営業になった場合
自営業になった場合、iDeCoへの加入を継続できます。
ただし、種別が第2号被保険者から第1号被保険者に変わるため、「加入者被保険者種別変更届」を管理機関に提出しましょう。
自営業になった場合のiDeCoの掛金限度額は68,000円です。
(5)無職になった場合
無職になった場合でも、引き続きiDeCoに加入することができます。
ただし、種別が第2号被保険者から第3号被保険者に変更となるため、上記の自営業になった場合と同様の書類を管理機関に提出しましょう。
無職になった場合、掛金の限度額は23,000円となります。
移換手続きには期日がある
移換手続きには、期日があるのをご存じでしょうか。
ここでは移換手続きの注意点について詳しく見ていきましょう。
(1)移換期限は6ヶ月
転職や退職で、企業型確定年金の加入資格がなくなった場合、6ヶ月以内に移換しなければなりません。
6ヶ月以内に移換手続きを行わなかった場合は、国民年金基金連合会に自動的に移換されるため、気をつけましょう。
(2)自動移換に注意が必要
期間内に手続きせずに自動移換になった場合、自動移換手数料や管理手数料を負担しなければなりません。
加えて、自動移換中は運用ができないため、なるべく早く手続きを行いましょう。
企業年金の移換先の選択肢は多くある
企業年金や中小企業退職金共済などでは、加入者が離職や転職をした場合にこれまでに積み立てた年金資産を持ち運ぶ「ポータビリティ」ができるケースがあります。
いくつかの例を見ていきましょう。
(1)企業型DC
企業型DCからの持ち運びの可否は、以下のとおりです。
確定給付企業年金 | 企業型DC | iDeCo | 通算企業年金 | 中退共 |
可(個人) | 可(個人) | 可(個人) | 可(個人) | 可(事業主) |
iDeCoと通算企業年金には、個人の申出で持ち運びができます。
通算企業年金とは、退職等で企業の年金制度を脱退した人の年金資産を、企業年金連合会が運用・給付する年金制度です。
確定給付企業年金は転職先での要件を満たす場合、企業型DCは転職先で導入されている場合に持ち運びができます。
また、中退共へは事業主の手続きによって持ち運びが可能です。
(2)iDeCo(イデコ)
iDeCoからの持ち運びの可否は、以下のとおりです。
確定給付企業年金 | 企業型DC | iDeCo | 通算企業年金 | 中退共 |
可(個人) | 可(個人) | ― | 不可 | 不可 |
確定給付企業年金は転職先で要件を満たしている場合、企業型DCは転職先で導入されている場合に持ち運びが可能となっています。
通算企業年金、中退共への持ち運びはいずれもできません。
(3)確定給付企業年金
確定給付企業年金からの持ち運びの可否は、以下のとおりです。
確定給付企業年金 | 企業型DC | iDeCo | 通算企業年金 | 中退共 |
可(個人) | 可(個人) | 可(個人) | 可(個人) | 可(事業主) |
iDeCo、通算企業年金には個人の申出で持ち運びができます。
確定給付企業年金は転職先で要件を満たしている場合、企業型DCは転職先で導入されている場合に持ち運びが可能です。
中退共へは、合併などの理由に限り、事業主の手続きで持ち運びができます。
(4)中退共
中退共からの持ち運びの可否は、以下のとおりです。
確定給付企業年金 | 企業型DC | iDeCo | 通算企業年金 | 中退共 |
可(事業主) | 可(事業主) | 不可 | 不可 | 可(個人) |
中退共へは、個人の申出で持ち運びができます。
確定給付企業年金、企業型DCには合併などの理由に限り、事業主の手続きによって持ち運びが可能です。
iDeCo、通算企業年金への持ち運びはできません。
分からない方はFPに相談
企業型DCやiDeCoを利用したいと思っていても、「毎月の掛金はいくらにすればいいの?」「どの運用商品に投資すればいいの?」といった不安もあるでしょう。
企業型DCやiDeCoについて興味はあるけれどよく分からない人は、まずはFP(ファイナンシャルプランナー)に相談するのがおすすめです。
現在の資産状況やお勤め先の確定拠出年金制度などから、自分に合った資産の増やし方をFPが一緒に考えてくれるため、安心して企業型DCやiDeCoを利用できます。
まとめ
この記事では、退職や転職時の確定拠出年金の手続きについて解説してきました。
転職先に企業型DCがない場合は、速やかにiDeCoへの移換手続きを行いましょう。
6ヶ月以内に手続きがされない場合は自動移換となり、手数料が発生したり、運用ができなくなったりするデメリットがあります。
確定拠出年金について、自分に合った利用方法が知りたい人は、FPに相談するのがおすすめです。
自分に合った資産運用で、老後の生活に備えましょう。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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