コロナで通勤手当廃止の動きが加速!年金や給与から差し引かれる社会保険料はどうなる?
新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、大企業を中心にリモートワークが定着してきました。
それに合わせて、通勤手当を廃止し、交通費の実費を支給する方式に切り替える会社も出てきました。
会社と自宅の通勤経路で、途中下車で使えた定期券が使えなくなる、など、生活上の不便を感じている人もいると思いますが、遠距離通勤(通勤定期代が高い人)ほど、実は年金、健康保険等で大きな影響を受ける可能性があります。
今回は、通勤手当の減少による社会保険への影響について解説します。
(なお、交通費の実費精算により、出勤日数によっては、定期代よりも高くなる人もいると思われますが、その場合、会社側から通勤定期を使うように指示が出ると思われますので、本稿では割愛します)
通勤定期代、所得税・住民税は非課税ですが、社会保険料は重負担
通勤手当は月額15万円まで所得税・住民税が非課税とされています。
東京駅発着の新幹線通勤では、
- ✅東海道新幹線では東京・静岡
- ✅東北新幹線では東京・新白河
- ✅上越新幹線では東京・上毛高原
- ✅北陸・長野新幹線では東京・上田
までは非課税で支給されます。
そのため、長距離通勤ほど、お得感があるように感じられるかもしれませんが、
勤務先と会社員が負担する厚生年金保険料、健康保険料(40歳以上65歳未満は介護保険料)は、通勤手当も計算根拠となっています。
(通勤手当雇用保険料でも計算根拠となっていますが、今回の原稿では割愛します)
遠距離通勤は手取増となるケースも。
厚生年金保険料、健康保険料は、標準報酬月額、標準賞与額を元に計算されます。
この中には、通勤手当(定期代、実費精算を含む)も含まれます。
標準報酬月額は、32等級に分けて計算されますので、毎月の定期券代が少額であれば、
定期券代の支給がなくなっても、標準報酬月額の等級も変わらず、保険料も変わらない可能性があります。
一方、定期券代が高額である場合、定期券代の支給がなくなり、標準報酬月額の等級が下がることによって、毎月の保険料負担も減る可能性があります。通勤定期が日常生活に使えない不便はありますが、会社が支給する通勤手当が減ると、社会保険料が減り、手取給与は増える可能性があります。
例:東京の会社(協会けんぽ加入)勤務
標準報酬月額=賃金50万円(うち通勤手当月額2万円)の40歳以上65歳未満の場合
従来の社会保険料(賃金、標準報酬月額50万円)
健康保険料29,150円 厚生年金保険料45,750円
通勤手当廃止後(賃金48万円 標準報酬月額47万円)
健康保険料27,401円 厚生年金保険料43,005円
差額 月額 4,494円の手取増、年換算53,928円の手取増
東京都の健康保険料、厚生年金保険料
参考:令和2年9月分(10月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
通勤手当廃止によるプラス面 その1
保険適用となる治療を受け、1カ月間に支払う保険適用治療費が高額となる場合、
ある一定額を超える部分は治療費の負担が軽くなります。(30%負担→1%負担)。
例えば、70歳未満の場合、1カ月ごとの自己負担限度額は以下のとおり。
- 標準報酬月額83万円~:252,600円+(医療費-842,000円)×1%
- 標準報酬月額53万円~79万円:167,400円+(医療費-558,000円)×1%
- 標準報酬月額28万円~50万円:80,100円+(医療費-267,000円)×1%
- 標準報酬月額26万円以下:57,600円
- 低所得者(住民税非課税世帯):35,400円
所得区分の境目周辺の報酬を得ている人(53万円→50万円、28万円→26万円)は
高額治療を受ける場合の負担が軽くなる可能性があります。
参考:全国健康保険協会
その他、介護費用の負担も少なくなる可能性があります。
通勤手当廃止によるプラス面 その2
老後に働きながら年金を受け取る場合に減らされにくくなる。
60歳以降、厚生年金適用事業所で働き給料をもらいながら、年金も同時に受け取っている場合、給料と年金(報酬比例部分)の合計額が一定額を超えると年金が減らされます。
たとえば、65歳以降、給料(標準報酬月額+直近1年間の標準賞与額÷12)と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計が47万円を超えると、47万円を超える部分の半分の年金がカットされます。
通勤手当がなくなると、総報酬月額相当額が小さくなるため、年金がカットされにくくなり、年金の手取額が増加します。
通勤手当廃止によるマイナス面 その1 年金が少なくなる
保険料の負担が減少した分に応じて、厚生年金から受け取ることができる年金(老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金)が少なくなります。
通勤手当廃止によるマイナス面 その2 健康保険の手当が少なくなる
病気やケガで働くことができず、勤務先から給与を受けられない場合、
所定の要件のもと、支給開始日から最長1年6カ月にわたり、
標準報酬日額相当額の3分の2の金額が健康保険から支給されます。
通勤手当が支給されなくなると、標準報酬日額相当額も少なくなるため、傷病手当金も少なくなります。なお、出産前後の休業期間に支給される出産手当金も少なくなります。
通勤手当の廃止により、年金や健康保険の手当が減る一方で、
給与の手取額が増える、給料をもらいながら働く場合の年金が減りにくくなる等のメリットもあります。
家を新たに借りよう、新たに買おうと考えている皆さんは、
通勤手当の生活への影響を理解して、住まい探しをするエリアを考えてはいかがでしょうか?
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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