不動産投資における減価償却の仕組みは?計算方法や利用コツを解説!
節税目的でマンション投資を始めたいと思っている方々の中には、
- ✅どのマンションに投資すべきか迷っている
- ✅マンション投資における減価償却のメカニズムが理解できない
といった方もいらっしゃるでしょう。
収益を上げるためには、機械や建物などの固定資産を適切に「減価償却資産」として計上する必要があります。
本記事では減価償却の仕組みや計算方法、減価償却費が節税に寄与する理由などについて説明します。
さらに、節税効果の高い物件を選ぶ際のポイントも紹介していますので、減価償却について知りたい方、不動産投資を検討されている方は、ぜひ最後までお読みください。
不動産投資における減価償却とは
減価償却とは、固定資産の取得費用を法律で定められた耐用年数に基づいて、資産の価値を年々削減し、企業の経費として計上することです。
減価償却は、資産価値が時間の経過とともに減少する資産に対して適用され、これらの対象となる資産が「減価償却資産」です。
不動産の場合、建物本体だけでなく、関連する建物設備も減価償却の対象になりますが、土地は年数が経過してもその価値が減少しないため、対象外となります。
減価償却費は経費として計上できるので、節税にも役立ちます。
不動産投資は、住宅ローン減税とは異なる税金対策の方法です。税金対策の鍵は、減価償却にあるという考え方もあります。減価償却の仕組みを理解することで、なぜ税金の支払いを抑えられるのかが明確になります。
(1)法定耐用年数とは
法定耐用年数は、固定資産の価値が消滅するまでの期間を指します。
マンションの場合、住宅用の鉄骨鉄筋コンクリート造と鉄筋コンクリート造の建物については、この期間は47年と定められています。
木造建物の場合は22年とかなり短くなっています。
なお、この年数は国税庁によって設定されたもので、正確な税金の徴収を目的としているため、建物の寿命ではありません。
参考:国税庁 主な減価償却資産の耐用年数(建物/建物附属設備)
(2)減価償却には3つの計算方法がある
実際に計上する際には、以下のいずれかの方法を選択する必要があります。
投資を開始した際の契約内容によって異なるケースもあるため、どの方法が適切かチェックすることが大切です。
ここでは、これらの3つの計算方法の概要を説明します。
①定額法
1年間の減価償却費を原則として一定にし、法定の耐用年数に基づいて計上する方法は、「定額法」と呼ばれます。
不動産投資において、この方法は一般的によく使用されています。計算方法は次の通りです:
定額法の償却限度額=取得価額×定額法償却率 |
ここで、取得価額は建物にかかる費用を指し、定額法償却率は耐用年数に基づいて定められた減価償却率を指します。
定額法の償却率一覧は減価償却資産の償却率等表よりご確認できます。
②定率法
定率法は、取得時の価格からこれまでの減価償却累計額を差し引き、その後に償却率を掛ける方法です。
たとえば、10年で1,000万円の資産を償却する場合、最初の年は20万円、2年目は16万円といった具体的な金額になります。
経過年数が増えると、償却率は低くなります。
ただし、定率法は建物に付随する設備にのみ適用され、しかも2016年3月31日までに取得した設備に限定されます。
したがって、建物自体の減価償却には適用されません。
定率法の計算式は、以下の通りです:
減価償却費=(取得価格-前年度までの減価償却累計額)×定率法償却率 |
③簡便法
中古マンションなど中古の投資用不動産を購入する際には、「簡便法」と呼ばれる計上方法が使用されます。この方法は、法定耐用年数を適用する際に新築物件とは異なるルールを採用しています。具体的な耐用年数の算出方法は、以下の2パターンです。
法定耐用年数を超えていない場合:
耐用年数 = (法定耐用年数 – 経過年数) + 経過年数 × 20% |
法定耐用年数以上が経過している場合:
耐用年数 = 法定耐用年数 × 20% |
参考:国税庁「中古資産の耐用年数」
実際に減価償却費を計算してみよう
では、実際に減価償却費を計算する手順を確認しておきましょう。
(1)建物価格を決める
まず、減価償却費の計算に必要な資産の原価を決めます。
建物価格は、購入価格や建設費用、取得に関連する全ての直接的な支出を含めた金額です。
これは、建物を取得するために支払った合計額になります。
(2)減価償却期間を算出する
次に、建物の減価償却期間を決定します。減価償却期間は、資産の価値が経年劣化によって減少する期間のことです。
建物の場合、一般的に20年、30年といった数十年の期間で減価償却が行われます。
減価償却資産は、法定耐用年数で分割して、取得費用を経費計上できます。
マンションやアパートなど住宅用建物の法定耐用年数は、建物の構造により以下のように決められています。
構造 | 法定耐用年数数 |
木造・合成樹脂造 | 22年 |
木骨モルタル造 | 20年 |
金属(鉄骨)造 ※(骨格材の肉厚が4mm超) | 34年 |
金属(鉄骨)造 ※(骨格材の肉厚が3mm超、4mm以下) | 27年 |
金属(鉄骨)造 ※(骨格材の肉厚が3mm以下) | 19年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)・鉄筋コンクリート造(RC造) | 47年 |
(3)実際に減価償却費を計算する
では、最も一般的な定額法で減価償却費を計算してみましょう。
減価償却費の計算は、建物価格を減価償却期間で割ることで、1年間あたりの減価償却費を計算できます。
たとえば、建物の取得価額が5,000万円で、法定耐用年数が22年の場合、減価償却資産の償却率表を見ると、定額法償却率は0.046です。
したがって、年間の減価償却費は以下のように計算されます。
5,000万円 × 0.046 = 230万円
つまり、毎年230万円ずつ建物の価値が減少し、22年後には0円になります。
このように、計算方法はシンプルで理解しやすく、比較的容易にシミュレーションすることが可能です。
不動産投資の減価償却費が節税に有効な理由は?
不動産投資の減価償却費は、投資に関連する支出ではなく、実際に支出がない状態でも経費として計上できる点が魅力です。
「必要経費」として扱われる一般的な項目とは異なり、不動産投資のような固定資産に関する投資特有の利点を実感できます。
また、負担を軽くするための損益通算についても理解しておくとよいでしょう。
この2つの視点から、減価償却がもたらす節税効果について説明します。
(1)減価償却費は実際に支出のない経費
「経費」という言葉から浮かぶのは、通常、仕事関係での接待や事務用品の購入などに伴う支出です。
これらの支出は実際に支払われた金額を記録し、個人的な支出にならないようにきちんと申告します。
一方、減価償却資産は、実際には直接の支出を伴わないものです。
不動産投資の場合、購入費用のうち建物部分の金額は一括で経費計上されず、定められた年数に分割して経費計上されます。
そのため、法定の耐用年数を超えるまで、建物そのものが経費として扱われるため、節税に有効です。
不動産投資に限らず、減価償却の対象となるかどうかを理解しておきましょう。
(2)損益通算することができる
不動産投資を行う際には、物件の購入費用以外にもさまざまな費用がかかります。
特に初期段階で手続きに伴う費用が発生するため、購入費用も含めると、損失を被る可能性があります。
そこで役立つのが「損益通算」です。損益通算とは、給与所得と投資用不動産から得られる利益や損失を合算し、相殺できる制度です。
赤字部分の税金を節約できるのは大きなメリットなので、損益計算の記録も重要といえます。
会社員の方は、年末調整時に税金を支払いますが、不動産による所得が帳簿上だけでも赤字の場合、確定申告時に損益通算を利用すると、課税対象額が減額され、本来納税すべき税額も減ります。
年末調整時に支払いすぎた税金は後で還付されます。
減価償却費を活用して節税する時の注意点
不動産投資は税金の観点からもお得な結果が期待できる一方で、損失を生むリスクもあります。
場合によっては高額な税金を支払わなければならいない可能性もあります。
ここではあらかじめ注意が必要なポイントを4つ紹介しましょう。
(1)計上できるのは建物だけ
先述の通り、土地は時間の経過とともに価値が減少しないため、土地部分は減価償却費として計上することはできません。
建物および建物に付随する設備のみが減価償却対象であることに留意してください。
(2)デッドクロスになる可能性が大きい
金融および証券市場では、「デッドクロス」という言葉は株価チャートでの特定のパターンを指し、下降相場の開始を示すものとして使われます。
しかし、不動産投資におけるデッドクロスの意味は、金融および証券市場でのそれとはやや異なります。
不動産投資においては、デッドクロスはローンの元金返済のほうが減価償却費よりも大きくなっている状態を指します。
この状況では、帳簿上では利益が出ているにもかかわらず、課税される所得税額が増加し、資金繰りが悪化する可能性があるのです。
特に、減価償却率が大きい中古木造アパートなどの中古物件を節税対策として所有する場合、デッドクロスを避けるのは難しく、帳簿上では黒字であるにもかかわらず、実際のキャッシュフローは赤字となることがあります。
適切な対策を講じないと、最悪のケースでは黒字倒産する可能性があります。
引用:HOME4U
(3)売却の時に譲渡税が高く可能性がある
不動産の売却によって得られた利益は譲渡所得として課税され、所得税が発生します。
購入額と同額で売却すれば利益はゼロになると考える人もいるでしょう。
しかし、減価償却費を差し引いた不動産の実際の価値は減少しています。
減価償却が終了した不動産は1円として評価され、売却時のタイミングによっては、利益がそのまま譲渡所得になります。
譲渡所得税は、譲渡所得に一定の税率をかけて算出します。
譲渡所得税は、譲渡所得を所有期間によって、短期譲渡所得と長期譲渡所得に分け、それぞれの税率を掛けます。税率は下記の表を参照してください。
所得の区分 | 長期譲渡所得 | 短期譲渡所得 |
所有期間 | 5年超 | 5年以下 |
税率※ | 20.315% 所得税:15.315% 住民税:5% | 39.63% 所得税:30.63% 住民税:9% |
※復興特別所得税2.1%相当が上乗せ
たとえば所有期間5年超の5,000万円の譲渡所得の場合、譲渡所得には20.315%の税率が適用されるので、譲渡税は1015.75万円となり、約1,000万円です。
したがって、売却時の高額な税金の可能性も考慮に入れ、シミュレーションを事前に行っておくことが重要です。
(4)青色申告する時のメリットが大きい
白色申告では、損益の通算は認められますが、翌年以降の利益と前年度の損失を相殺する繰越控除はできません。
一方、青色申告では、損失を翌年から3年間繰り越して利益と相殺することができます。この繰越控除制度により、節税効果が期待できます。
たとえば、損益通算によって200万円の赤字が出た場合、青色申告をすれば、翌年の所得から200万円を差し引いて計算することができます。
さらに、青色申告で前年度が黒字の場合、その利益を繰り戻して損失と相殺し、還付を受けることも可能です。
これらの利点から、節税を考慮する際には青色申告がおすすめです。
減価償却費で節税効果が高いケース
節税のために不動産投資を検討する際には、減価償却費を活用して節税効果を最大限に引き出せる物件を選ぶことが重要です。
以下に、節税効果が高まる4つのケースをご紹介します。
(1)木造物件
年間の減価償却費を増やしたい場合、耐用年数が短い物件を選ぶのが賢明です。
そのため、新築マンションではなく、木造で築古の物件が節税の観点から見て適していると言えます。
(2)法定耐用年数を超えた木造物件
木造物件の中でも、耐用年数が切れた物件は、法定の耐用年数の20%に相当する期間で減価償却が可能なため、さらに多くの節税効果を期待できるでしょう。
木造住宅の法定耐用年数は通常22年です。つまり、築23年以上の木造物件であれば、より大きな節税メリットが得られることになります。
(3)年収が高い人
不動産投資において、所得税・住民税を節税するには、所得が一定額以上でないと目に見える効果は得られません。
日本では累進課税が採用されており、課税額が高いほど税率も高くなります。
課税所得が900万円以上の場合、所得税・住民税率は約33%となるため、譲渡税率との差が大きくなり、節税効果が高まります。
(4)10年以上長期譲渡の場合
不動産の譲渡所得は、所有期間が5年を超える長期譲渡と、短期譲渡として分類され、それぞれ異なる税率が適用されます。
長期譲渡は短期譲渡よりも税率が低く設定されているため、売却時には長期譲渡の条件を満たすことで節税が可能です。
さらに、10年以上の長期譲渡の場合は、軽減税率が適用されます。
通常、譲渡所得税や住民税を合算すると約20%の税率になりますが、特例を利用することで税率は14.21%まで引き下げられます。
たとえば1,000万円の譲渡所得がある場合、一般税率と軽減税率を比較すると、納税額に60万円以上の差が生じることになります。
減価償却の計上に不安な方はFPに相談
不動産投資は、中長期的な運用が基本ですので、将来的な節税や収益性を評価することが重要です。
不動産投資に関しては、専門的な知識が必要となります。分からないことがあれば、ぜひ税理士やFPに相談しましょう。
また、ライフプランに合わせて不動産投資すべきかどうか、不動産投資する時の投資プランなど、個々の状況に応じたアドバイスをすることもできます。中立的な立場だからこそ的確な提案ができますので、迷われている方はぜひFPに相談することをオススメします。
まとめ
不動産投資における減価償却は、物件や設備の耐用年数に基づいて毎年一定額が経費として計上でき、税金の軽減につながります。
特に年収が900万円以上の人にとっては魅力的です。
ただし、不動産投資は利益を上げる意欲を持って取り組まないと、損失を被る可能性があります。
また、減価償却期間を超えると節税効果が減少するため、売却する適切な時期を早めに考慮することも重要です。
お金の専門家であるFPのアドバイスを受けつつ、節税対策として減価償却を積極的に活用しましょう。
著者
- AFP、宅地建物取引士、DCプランナー、証券外務員一種、二種、内部管理責任者、不動産賃貸経営管理士、住宅ローンアドバイザー、日商簿記2級
☆「幻冬舎ゴールドオンライン」にて記事連載中☆
☆「NewsPicks」にて記事連載中☆
アジア金融の中心地であるシンガポールに10年間滞在。その後、外資系銀行にてプライベートバンカー、セールスマネジャー、行員向け経済学講師を経て独立系ファイナンシャルプランナー事務所を設立。著書に『58歳で貯金がないと思った人のためのお金の教科書』、『50代から考えておきたい“お金の基本”』。Bond University大学院でマーケティングと組織マネジメントを研究。経営学修士。
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