「福利厚生を導入したいがどのようなものがあるのか」「どのように選べばいいのか」と悩んでいる企業の担当者も多いでしょう。福利厚生にはさまざまな種類があり、必ず導入しなくてはならないものもあります。本記事では、福利厚生の種類や選び方、注意点などを詳しく解説します。人気ランキングも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
福利厚生とは給与以外の報酬・サービスのこと
福利厚生とは、企業が従業員に提供する給与以外の報酬やサービスを指します。正社員だけでなく、契約社員やパートタイム労働者を含む全従業員が対象です。
近年、中小企業を中心に人手不足が深刻化し、自分に合ったワークスタイルを重視する求職者が増加しています。そのため、人材確保や従業員の定着を目指す企業は、社員とその家族の身体的や精神的なQOL(※)の向上を目的として福利厚生を導入しています。
※Quality of lifeの省略。「生活の質」「生命(人生)の質」などの意味。
福利厚生の種類は「法定」と「法定外」の2つ
福利厚生には、法律で定められている「法定福利厚生」と、企業が独自に導入する「法定外福利厚生」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、適切に導入することが重要です。
法定福利厚生
法定福利厚生とは、労働基準法や健康保険法などの法律で定められた、企業が従業員に提供しなければならない福利厚生のことです。法定福利厚生には、以下の6種類があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
- 子どもや子育て拠出金
経営者は、法律で義務付けられている法定福利厚生に関する費用を支払う義務があるため、よく理解しておきましょう。
健康保険
健康保険は、従業員の医療費負担を軽減する制度です。加入者は病院で健康保険証を提示することで、治療費や診察料の自己負担割合が3割になります。
また高額療養費制度により、大きな医療費負担の軽減が可能です。保険料は、企業と従業員が折半して負担します。従業員の健康を守り、安心して働ける環境を整えることを目的としています。
厚生年金保険
厚生年金保険は公的年金制度の1つで、高齢期の生活の保障を目的としています。加入者は、現役時代に厚生年金保険料を納めることで、国民年金に上乗せして老後に年金を受け取ることが可能です。年金額は、加入期間や収入に応じて決定されます。
また、障害年金や遺族年金など、さまざまな状況に対応した年金も用意されています。保険料は、企業と従業員が折半して負担します。
介護保険
介護保険とは、介護が必要な人が介護サービスを利用するための制度です。介護保険の加入対象は40歳以上の人です。65歳以上の人は原因に関わらず介護サービスを利用できますが、40~64歳の人は特定疾病が原因の場合に限り介護サービスを利用できます。
保険料は、企業と従業員が折半して負担します。
労災保険
労災保険は、業務上や通勤途中で病気やケガをした場合に、医療費の補償や休業補償などを受けられる制度です。労災保険では、医療費の全額が補償されるほか、休業補償や障害補償、遺族補償などが受けられます。
また労災保険に加入していることで、企業は労災事故に対する責任を軽減することが可能です。保険料は、企業が全額負担します。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、子育て支援の充実を図るために設けられた制度です。企業が拠出した金額は、児童手当の支給や、保育所の運営、地域の子育て支援事業などに使用されます。
これにより、子育て世帯の経済的負担を軽減し、子どもの健全な育成を支援することを目的としています。従業員の子どもの有無は関係なく、拠出金は企業が全額負担します。拠出金は将来の労働力確保や、従業員の仕事と家庭の両立支援につながる制度です。
法定外福利厚生
法定外福利厚生とは企業が独自に設けられる福利厚生です。一般的に以下のようなものが挙げられます。
- 食事補助
- 通勤手当
- 住宅手当
- 育児・介護支援
- 働き方
- 余暇やレクリエーション
- 慶弔や災害
- 健康やヘルスケア
- 自己啓発
- 財産形成
これらの法定外福利厚生は、企業が従業員のニーズにあわせて自由に設計できるため、多種多様なものがあります。
法定外福利厚生費は企業が全額負担し、経費として計上することが可能です。税務上認められれば、その分は損金扱いとなり非課税になります。
つまり、福利厚生費に充てた分は税金を払う必要がないので、節税対策として有効といえます。企業の特色を反映した魅力的な福利厚生を提供することで、優秀な人材の確保や従業員の満足度向上につなげられるでしょう。
食事補助
食事補助とは企業が社員食堂を運営したり、食事代の一部を補助したりすることで、従業員の食費負担を軽減しながら健康的な食生活を支援する制度です。
社員食堂では、栄養バランスに配慮した食事を提供し、従業員の健康維持に貢献します。また、食事代の補助により、従業員の経済的負担を軽減し、仕事に集中できる環境を整えます。
通勤手当
従業員の通勤に必要な交通費の一部を企業が負担する制度です。通勤距離に応じて支給額が決定され、従業員の通勤負担を軽減することを目的としています。
電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合、定期券代の一部や全額を支給するケースが一般的です。また、自家用車で通勤する場合は、ガソリン代や駐車場代の補助が行われることもあります。
住宅手当
企業が従業員の住宅費用の一部を補助する制度です。家賃補助や社宅の提供などがあり、従業員の住環境改善と生活の安定を図ることを目的としています。
家賃補助は、各企業が任意で定めた支給額の範囲内で、実際の家賃の一部を企業が負担します。社宅の提供は、企業が所有または借り上げた住宅を従業員に少額な家賃で貸与するものです。
育児・介護支援
育児・介護支援は、共働き世代の増加にあわせて従業員の仕事と家庭の両立を支援し、働きやすい環境を整える制度です。具体的には、育児休業の延長制度、社内保育園・託児所の設置、介護費用補助などがあります。
これにより、従業員は子育てや介護に専念する時間を確保しつつ、仕事にも集中できるようになります。また、育児や介護費用の一部を企業が負担することで、従業員の経済的負担も軽減されるのです。
働き方
フレックスタイム制度や時差出勤制度、短時間勤務など、従業員のライフスタイルやニーズにあわせて多様な働き方を選択できる制度です。具体的な内容は以下のとおりです。
制度名 | 概要 | 対象者 | メリット |
---|---|---|---|
フレックスタイム制度 | 一定の時間帯に勤務すれば、始業・終業時刻を従業員が自由に決められる | 全従業員 | 自分の生活スタイルに合わせて働ける |
時差出勤制度 | 業務に支障がない範囲で、従業員が出勤時間を選択できる | 全従業員 | 通勤ラッシュを避けられる、自分の生活リズムに合わせて働ける |
短時間勤務制度 | 所定労働時間を短縮して働ける | 育児や介護などの事情を抱える全ての従業員 | 仕事と家庭の両立がしやすくなる |
このように従業員が多様な働き方を選択できるようになるため、従業員のニーズを満たせるでしょう。
余暇やレクリエーション
社員旅行や保養施設の提供・利用補助により、従業員の交流を深め、リフレッシュを促進する制度です。また、誕生日や記念日などに特別休暇を付与し、ワークライフバランスの向上を図ります。具体的な制度は、以下のとおりです。
制度名 | 概要 | 目的 | メリット |
---|---|---|---|
社員旅行 | 普段の業務とは異なる環境で、従業員同士が交流する機会を提供 | 従業員間の親睦を深める | チームワークの向上、コミュニケーションの活性化 |
保養施設の提供・利用補助 | 従業員が休暇を利用して、リゾート地などで過ごすことを支援 | 従業員のリフレッシュを促進する | 心身のリフレッシュ、モチベーションの向上 |
アニバーサリー休暇 | 従業員の誕生日や結婚記念日などに、特別な休暇を付与 | プライベートな時間を大切にする企業姿勢を示す | 従業員の満足度向上、ワークライフバランスの実現 |
このように、余暇やレクリエーションに関する福利厚生制度は、従業員のモチベーション向上やワークライフバランスの実現に役立ちます。
慶弔や災害
慶弔や災害の福利厚生とは従業員の冠婚葬祭時の祝金や見舞金、傷病や災害時の休業補償や見舞金など、従業員のライフイベントや不測の事態をサポートする制度です。
冠婚葬祭時の祝金や見舞金は、従業員やその家族の慶事や弔事に際して、企業からの祝意や弔意を表するものです。傷病や災害時の休業補償や見舞金は、従業員が病気やケガ、災害に遭遇した際に、一定期間の休業補償や医療費の補助などを行うことで、生活の安定を支援します。
健康やヘルスケア
健康やヘルスケアの福利厚生とは、人間ドックの受診補助やメンタルヘルスケアのためのカウンセリングサービスなど、従業員の心身の健康維持・増進を支援する制度です。
人間ドックの受診補助は、健康診断では発見しにくい疾病の早期発見・早期治療を目的として、従業員の受診費用の一部を企業が負担します。メンタルヘルスケアのカウンセリングサービスは、ストレスや心の健康に関する相談に専門家が対応することで、従業員のメンタルヘルスを支えます。
自己啓発
自己啓発の福利厚生は、従業員の資格取得や教育訓練、セミナー参加などを支援することで、スキルアップや自己成長を促進する制度です。
資格取得支援は、業務に関連する資格の取得費用や勉強時間を企業が提供することで、従業員のキャリアアップを後押しします。教育訓練やセミナー参加の支援は、従業員の能力開発や専門知識の習得を目的として、社内外の研修やセミナーへの参加を奨励します。
財産形成
財産形成の福利厚生は従業員の貯蓄を支援する仕組みや、マネーリテラシーを向上させるための制度を提供し、従業員の将来設計や資産形成をサポートする制度です。
財形貯蓄制度は、給与から一定額を天引きし、預金や投資信託などに積み立てることで、従業員の計画的な貯蓄を支援します。マネーリテラシー向上のための制度は、従業員に対して金融や投資に関する教育を提供し、適切な資産運用の知識を身につけることを目的としています。
福利厚生導入率ランキングTOP5
「福利厚生の種類が多く、決められない」と思う人も多いでしょう。ここで、実際に企業が導入している福利厚生のランキングを見てみましょう。
以下のランキングは、一般社団法人日本経済団体連合会が実施した調査の結果です。対象企業1,779社のうち、608社から回答を得て集計したデータに基づいています。詳しい内容や企業が負担する福利厚生費の金額も紹介します。
順位 | 分類 | 内容 | 福利厚生費(従業員1人1ヶ月当たり) | 導入している企業の割合 |
---|---|---|---|---|
1位 | 住宅関連 | 住宅手当、家賃手当 | 11,639円 | 48.2% |
2位 | 医療・健康 | 医療・保健衛生施設運営、ヘルスケアサポート | 3,187円 | 13.2% |
3位 | ライフサポート | 食事、介護、育児、財形など | 5,505円 | 22.8% |
4位 | 文化・体育・レクリエーション | 社内懇親会の費用補助・飲食店や宿泊施設の割引補助、部活動費の補助への補助 | 2,069円 | 8.6% |
5位 | その他 | ― | 629円 | 2.6% |
企業が提供する福利厚生は多岐にわたりますが、福利厚生費の割合は住宅関連が最も高く、次いでライフサポート、医療・健康となっています。
ただし、福利厚生の種類の豊富さよりも、従業員のニーズを適切に把握し、導入後は制度の周知や効果検証を徹底することが重要です。また、全ての従業員に公平に提供される福利厚生を目指すことも大切です。
従業員のニーズに合った、公平性のある福利厚生を設けることが、企業の持続的な成長につながるでしょう。
福利厚生を設けるメリット
福利厚生を充実させることは、従業員の満足度を高め、企業の発展につながります。福利厚生を設けるメリットは、以下のとおりです。
人材確保や従業員の定着率が上がる
魅力的な福利厚生を提供することで、従業員のニーズを満たし、満足度の高い職場環境を整えられます。これにより優秀な人材の確保や、従業員の定着率の向上が期待できるでしょう。
また、自社ならではの福利厚生を設けることで他社との差別化を図り、企業の魅力を高めることにつながります。従業員の満足度が高まることで、モチベーションが向上し、生産性の向上も見込めます。
法人税が軽減できる
福利厚生費は、一定の条件を満たせば損金算入が可能です。つまり、福利厚生に係る費用を経費として計上することで、法人税の軽減につながります。
適切な福利厚生の設計は、税金対策としても有効に活用できるでしょう。
企業のイメージアップにつながる
福利厚生の内容や方向性は、企業イメージに大きな影響を与えます。働きやすさや従業員の健康をサポートする福利厚生を設けることで、社会的責任を果たす企業としての評価を高められます。
さらに、福利厚生の取り組みが認められた場合には、国から認証を受けられる可能性もあります。そのような外部からの評価は、企業の信頼性やブランド力の向上につながるでしょう。
福利厚生を設けるデメリット
福利厚生を導入することには、多くのメリットがある一方で、デメリットも理解しておく必要があります。福利厚生を導入してから後悔しないように、事前に確認しておきましょう。
コストが発生する
福利厚生を導入する際には、一定のコストが発生します。一般社団法人日本経済団体連合会の「2020年度福利厚生費調査結果の概要」によると、企業が負担した福利厚生費用は、従業員1人あたり月額10万8,517円(法定福利費84,392円、法定外福利費24,125円)にのぼります。
福利厚生の内容によっては、多額の費用負担が必要となるため、企業の財務状況を考慮しながら、適切な福利厚生の設計が求められます。
出典:一般社団法人日本経済団体連合会「2020年度福利厚生費調査結果の概要」
福利厚生を途中で廃止するとリスクがある
一度導入した福利厚生を、途中で廃止や縮小することは容易ではありません。従業員が福利厚生を当然の権利と認識している場合、その廃止は従業員のモチベーションを大きく低下させる可能性があります。
福利厚生の変更や廃止が必要な場合には、その理由や背景を従業員に十分に説明し、理解を得ることが重要です。福利厚生の設計段階から、長期的な視点を持ち、継続可能性を十分に検討しておくことが求められます。
福利厚生の導入事例
従業員のニーズに合わせた福利厚生の設計は、企業の魅力を高めるうえで重要な要素となります。そのため多くの企業は独自のユニークな福利厚生を導入しています。
ここでは以下のユニークな福利厚生を導入している企業3社を紹介します。
基本無料で食事を提供してもらえるカフェテリア:楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社では、カフェテリアのあるオフィスで朝昼晩の食事を基本的に無料で提供しています。また楽天クリムゾンハウスサービス施設では、ヘアサロンやネイルサロン、マッサージなどのサービスを優待価格で利用できます。食事や美容など、日常生活に関連する福利厚生を充実させることで、従業員の満足度向上を図っているようです。
出典:楽天グループ株式会社「福利厚生」
選択型福利厚生制度:任天堂販売株式会社
任天堂販売株式会社では、選択型福利厚生制度を導入しています。年度ごとに付与されるポイントの範囲内で従業員は自分が受けたいメニューを選択でき、家賃や書籍の購入などに充てることが可能です。
また、同性パートナーがいる社員を婚姻と等しく扱うパートナーシップ制度も設けています。このように選択型福利厚生制度は、多様な従業員のニーズに応える福利厚生制度です。
出典:任天堂販売株式会社「新卒採用Q&A」
出典:任天堂販売株式会社「CSR情報」
社員の資産形成に寄与する取り組み:株式会社博報堂
株式会社博報堂では、社員の資産形成をサポートするさまざまな取り組みを行っています。
主な内容は以下のとおりです。
- 財形貯蓄や拠出型企業年金保険
- 職場積立NISA制度
- 財形持家転貸制度 など
また、税務や財務相談の窓口を設置し、専門家によるアドバイスを受けられる体制を整えています。長期的な視点で従業員の生活を支える福利厚生を提供しており、社員が将来的なお金の面で不安をなくし、豊かな生活を送れるよう支援しているようです。
新しい福利厚生を導入したい!選び方のポイント
福利厚生の導入は、従業員の満足度向上や企業の魅力アップにつながります。しかし、適切な福利厚生を選ばないと、期待した効果が得られない可能性があります。ここでは、新しい福利厚生を導入する際の選び方の3つのポイントを解説します。
運用・管理方法を考える
福利厚生の導入は、自社で運用するか外部に委託するかを検討する必要があります。自社運用の場合、金銭的補助を目的とした福利厚生を導入しやすい一方、担当者の負担が大きくなる傾向があります。
外部委託の場合は、専門的なノウハウを活用できますが、コストが高くなる可能性があります。自社の体制や予算に合わせた運用や管理方法の選択が重要です。
従業員のニーズを満たせるものか考える
福利厚生は従業員のニーズに合ったものでなければ、効果的とはいえません。導入前に、従業員にアンケートをとり、どのような福利厚生が従業員の満足度をあげるのかを把握しましょう。
また福利厚生を導入しても、利用しにくいのでは意味がありません。導入した福利厚生を利用しやすい環境を整えることが大切です。たとえば、導入後に役員や役職が積極的に利用すれば、ほかの従業員も利用しやすくなるのではないでしょうか。
トータルのコストパフォーマンスを考える
福利厚生の導入には、一定のコストがかかります。メニューや施設が増えるほど、コストも増大します。しかし、コストのみを重視して福利厚生を選ぶと、従業員が利用しにくいサービスになってしまう可能性があります。
福利厚生の効果とコストのバランスを考え、トータルでみたコストパフォーマンスを重視することが大切です。従業員の満足度と企業の費用対効果を両立できる福利厚生を選ぶことが理想的です。
福利厚生を導入する際の注意点
注意点を事前に理解しておくことで、福利厚生を選ぶ基準やコストの把握ができます。
福利厚生の導入は、従業員の満足度向上や企業の魅力アップにつながりますが、導入する際には以下の点に注意しましょう。
福利厚生は課税対象になるものもある
法定福利費は非課税ですが、法定外福利費は課税対象となる場合があります。非課税となるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- かかる費用が一般的な金額であること
- パートやアルバイトなど全従業員が平等に使えるものであること
- 規定のある項目について上限を超えていないこと
- 現金や商品券など換金性の高いものを渡して給与とみなされないこと
福利厚生を導入する際は、非課税となる条件を満たしているかどうかの十分な確認が重要です。
非課税と思っていたら、実は条件を満たしておらず、あとから課税対象となってしまったケースもあるので注意が必要です。このような事態を避けるためにも、福利厚生の設計段階で、税制面での取り扱いを十分に検討し、適切な運用を心がけましょう。
上限額が決められている福利厚生がある
一部の福利厚生には、非課税となる上限額が設定されています。上限を超える部分は、課税対象となってしまうため、理解しておきましょう。上限額が決まっている福利厚生は以下のとおりです。
- 通勤手当
- 住宅手当
- 食事補助
上限額を超えた福利厚生を安易に約束してしまうと、あとになって課税対象になるケースがあります。その結果、会社としては想定外の税負担を強いられ、従業員も期待していた福利厚生が受けられなくなるなど、両者にとって不利益となる可能性があります。
福利厚生の設計には、従業員への還元と税制面でのバランスを慎重に考える必要があるでしょう。
通勤手当
通勤手当は、従業員の通勤に必要な交通費を会社が負担する制度です。ただし、非課税となる金額には上限が設けられています。以下の表は、片道の通勤距離に応じた1か月あたりの非課税限度額です。
片道の通勤距離 | 1か月あたりの上限額 |
---|---|
2km未満 | 全額非課税 |
2km以上10km未満 | 4,200円 |
10km以上15km未満 | 7,100円 |
15km以上25km未満 | 12,900円 |
25km以上35km未満 | 18,700円 |
35km以上45km未満 | 24,400円 |
45km以上55km未満 | 28,000円 |
55km以上 | 31,600円 |
この上限額を超える部分は、課税対象となります。したがって、会社が通勤手当を支給する際は、この非課税限度額を考慮して金額を設定する必要があります。
なお、この上限額は、従業員がマイカー通勤をする場合に適用されます。公共交通機関を利用する場合は、月15万円までが非課税です。
住宅手当
住宅手当を非課税にするためには、従業員から賃貸料相当額の50%以上を受け取らなければなりません。この賃貸料相当額は、以下の式で求められます。
- 賃貸料相当額 = (その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%) + (12(円) × 建物の総床面積(平方メートル)/3.3) + (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%)
この賃貸料相当額の半分以上を従業員から受け取ることで、会社が提供する住宅手当が適正な範囲内であると判断され、非課税扱いとなります。これにより、会社は従業員の住環境の改善を支援しつつ、税制面でのメリットも得られるのです。
なお、会社が従業員に提供する住宅手当は、会社所有の社宅や寮に限定されません。会社が外部から物件を借り上げて従業員に貸与する場合も、前述の計算式により算出された金額が、賃貸料相当額として適用されます。
食事補助
食事補助が非課税となるためには、役員や従業員が食事の価額の半分以上を負担し、食事の価額から役員や従業員が負担している金額を差し引いた額が1か月あたり3,500円(消費税および地方消費税の額を除く)以下である必要があります。
例えば、社員食堂で提供される食事の価格が350円(税抜)で、従業員が200円を負担し、会社が150円を補助するとします。仮に、1か月に20日間出勤し、毎日社員食堂で食事をとる場合、以下のようになります。
- 1か月の食事代総額:350円 × 20日 = 7,000円
- 従業員負担額:200円 × 20日 = 4,000円
- 会社補助額:150円 × 20日 = 3,000円
- 7,000円-4,000円=3,000円
この場合従業員は食事代の半分以上を負担しており、会社の補助額は1か月あたり3,500円以下となっているため、この食事補助は非課税となります。
まとめ
福利厚生は従業員の満足度を高め、モチベーションを向上させる重要な施策であり、優秀な人材の獲得や離職防止にも効果的です。
企業が経営戦略に沿った福利厚生制度を設計し、適切に運用することは、従業員と企業の双方にとって有益な職場環境の創出につながります。従業員は、自分のニーズに合った福利厚生を受けることで、仕事へのやりがいを高められるでしょう。
一方、企業は従業員の満足度向上により、生産性の向上や業績の改善を期待できます。
このように福利厚生は、企業の長期的な成長と発展を支える不可欠な要素だと言えます。企業には、時代の変化や従業員のニーズを的確に捉え、適切な福利厚生制度を構築や運用していくことが求められています。