ファイナンシャル・ウェルビーイングとは「お金に不安がなく、楽しむための選択ができる状態」を指します。

本記事では、ファイナンシャル・ビーイングの詳しい意味や人事担当者が従業員のためにできることをわかりやすく解説します。人事評価の見直しや具体的な福利厚生についても解説していますので、ぜひご一読ください。

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、「経済的な安定を維持し、今と将来にわたって満たされた状態」を指します。この概念は日本ではまだあまり馴染みがないかもしれませんが、欧米では広く認識されています。

ウェルビーイングにはさまざまな要素がありますが、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」はその重要な一部です。この概念が注目されている理由についても理解しましょう。

そもそも「ウェルビーイング」とは?

ウェルビーイング(Well-being)は、お金以外も含めたさまざまな分野で「満ち足りて幸せだと実感できる状態」を意味します。

それでは、幸福だと感じるのはどのような状況でしょうか。例えば、高級品に囲まれて贅の限りを尽くした環境におかれることで幸せを感じる人がいます。

一方で、豪華ではない質素な生活でも、シンプルさが心地よく幸福と感じる人もいます。つまり、何をもってウェルビーイングだと感じるかは、人によって異なるものだと考えることができます。

さまざまな考え方があり、価値観はそれぞれなので当然でしょう。ただ、多くの人が集まると、どの程度がウェルビーイングなのかという構造が見えてきます。

日本でも2021年に、政府のいわゆる骨太の方針で「政府の各種の基本計画等についてWell-beingに関するKPI(重要業績評価指標)を設定する」と記載されました。

それ以降、東京都の「都庁の活性化・ウェルビーイング実現プロジェクト」など地方自治体にも職員のウェルビーイングを追求する動きがあります。こうした動きは今後も続いていくでしょう。

「経済的安心感があり人生を楽しむ選択ができる状態」を指す

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、アメリカ金融消費者保護局(CFPB)によれば、現在および将来の金銭的な義務をしっかりと支払い、経済的な安心感をもって人生を楽しむ選択ができる状態を指します。

人はお金に関して、しばしば「どれだけあっても不安」と感じることがあります。これは未来に対する不確実性から生じる不安感が原因です。将来への不安があると、現在の幸福感も低下してしまうことがあります。

このため、ファイナンシャル・ウェルビーイングは重要であり、特に人事担当者にとっては、従業員が経済的安心感を感じられるよう支援することが、職場の満足度や生産性向上につながります。

出典:消費者金融保護局「データスポットライト: 2017 年から 2020 年までのアメリカの経済的健全性」

ファイナンシャル・ウェルビーイングの実現で得られるメリット

ファイナンシャル・ウェルビーイングが実現されると、従業員だけではなく企業にもメリットがあります。

それでは、企業にどのようなメリットがあるのか、考えられる3つのメリットを見ていきましょう。

1.エンゲージメントが高まりやすい

エンゲージメントとは、従業員が自社に対して強い愛着と貢献意欲を持つことをいいます。従業員エンゲージメントが高い場合、従業員と企業の信頼関係がしっかりしており、企業への理解が深まり仕事へのモチベーションが高くなります。

このように活気に満ちた環境では組織全体が協力して、より良い商品やサービスをお客様に提供することが可能です。

従業員のエンゲージメントが向上することは、お客様との信頼関係である顧客エンゲージメントの強化にもつながり、結果として企業の利益の向上に寄与します。

2.生産性が向上する

心が安定していると、仕事のパフォーマンスが向上し、生産性が高まりやすくなります。反対に経済的な不安やストレスがあると、仕事の効率は低下します。

生産性を向上させることは、「労働者一人ひとりがどれだけの利益を生み出せるか」という観点から見て非常に重要です。

従業員の心理的な安定が保たれていれば、より短い労働時間で以前と同じかそれ以上の成果が出る可能性があります。

3.従業員の定着率が高くなる

従業員が自分のウェルビーイング(心身の健康と幸福感)を実感すると、企業への貢献や長期間働く意欲が高まります。

特に人材不足に悩む業界では、離職防止策が急務です。離職率が低減することは、優秀な人材の確保に直接つながります。

従業員の定着率が高まることは、企業のポジティブなイメージを形成し、強化する助けとなるでしょう。

ファイナンシャル・ウェルビーイング向上のために人事がすべきこと

従業員がファイナンシャル・ウェルビーイングを実感するためには、単に給与を増やすだけでなく他の方法も考えることが重要です。

ここでは、企業がファイナンシャル・ウェルビーイングを向上させるために取り組める施策を解説します。自社の内容と比較したり施策として取り入れたりできそうなものから検討していきましょう。

給与体系・評価制度の見直し

給与体系と評価制度は、従業員にとってわかりやすく整備されているでしょうか。この機会に、それらのシステムを見直してみることをおすすめします。

評価の基準が不明瞭であったり、評価結果の処遇への反映方法が不透明であると、従業員のモチベーションは低下しやすくなります。

重要なのは、評価基準を明確にし、その結果がどのように処遇に影響するかを従業員に事前に明らかにすることです。

透明性と公平性を保ち、従業員が納得して働ける環境を作ることが従業員エンゲージメントの向上につながります。

福利厚生の充実

福利厚生の拡充は、従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングを大いに向上させることができます。具体的には、家賃補助、通勤補助、育児休暇・産休制度、介護サービス利用補助などが挙げられます。

これらの経済的サポートがあれば、従業員は金銭的な負担を感じにくくなり、精神的な余裕も生まれます。その結果、従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングが向上し、職場環境がより充実したものになります。

人事担当者は、これらの福利厚生を充実させることで、従業員の満足度を高めることが可能です。

従業員の金融リテラシーを上げる金融教育研修

金銭的な心配を軽減するためには、以下のような取り組みが有効です。

  • 着実な貯蓄の積み上げ
  • 住宅ローンの返済を含む家計管理
  • 緊急時に備える予備資金の確保
  • 保険を利用した保障の準備

しかし、これらを個々で学ぶのは難しい人も多いでしょう。そのため、組織として金銭教育の研修機会を設けることが重要です。例えば、シリーズ講座として定期的に教育プログラムを行うことで、継続的な学びを促すことができます。

さらに、従業員が自分自身の夢や目標に向かって計画を立てられるよう、ライフデザインに関する情報も提供します。目標に向かうプロセスを具体的にイメージできることで、実際に資産を形成する以前にも幸福感を得られます。

金銭教育を通じて金融リテラシーを向上させることは、経済的な不安を取り除き、充実した人生を送るための選択肢を広げます。これは従業員のモチベーション向上にも寄与するでしょう。

従業員の資産形成をサポートできる福利厚生を導入しよう

せっかく金融教育を行っても、従業員が「実際にどのように行動すればいいのかわわからない」と感じると、その教育の効果は限定的です。

この問題を解決するために、具体的な資産形成をサポートする福利厚生の導入を検討することが有効です。具体的な方法としては、以下のような取り組みが考えられます。

  • 専門家によるセミナーを実施し、具体的な金融知識と戦略を提供する
  • 従業員が副業を行うことを可能にし、そのプロセスを制度化することで副業を始めやすくする
  • 定期的にファイナンシャルプランナー(FP)との家計相談会を開催し、個々の金融状況に合わせたアドバイスを提供する

上記の施策は、従業員が学んだ知識を実生活で応用しやすくするだけでなく、具体的な行動に移すための支援になります。従業員の金融的自立と福利厚生の価値を高めることが可能です。

企業型DC(企業型確定拠出年金)の導入

企業型確定拠出年金(DC)は、企業が掛金を積み立てることで、従業員が退職後に年金形式や一時金として給付金を受け取る制度です。

従業員にとっては、「会社が将来のためにお金を積み立ててくれる」という心強いサポートが得られ、老後資金の計画的な準備が可能となります。

また、福利厚生の一環として導入することで、年金制度が整っていない企業と比較して、企業のイメージアップや従業員の満足度(ES)の向上が期待できます。

導入を検討する際には、デメリットも考慮する必要があります。具体的には、掛金や事務コストの資金需要、加入者への投資教育の必要性などが含まれます。しかし、企業側にも以下のようなメリットがあります。

  • 拠出した掛金を全額損金処理することが可能
  • 投資教育を通じて従業員の金融リテラシーが向上する
  • 退職金制度に比べて経理の取り扱いがシンプル

これらの点を踏まえ、企業型DCの導入は、従業員と企業双方に利益をもたらす可能性があり、視野に入れる価値があるでしょう。

まとめ

ファイナンシャル・ウェルビーイングの実現において、正解は1つではありません。

企業が従業員のエンゲージメントを向上させる方法も同じです。現在の制度や考え方に応じて、最適なアプローチが異なるためです。人事担当者としては、さまざまな取り組みを理解することが、エンゲージメント向上のための第一歩となります。

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