少子化により労働人口が減少するなか、離職率を下げて人材定着を図るのは企業にとって重要な課題です。しかし、自社の離職率をどう把握すればよいのか、離職率の調べ方がわからずに困っている人事担当者もいるのではないでしょうか。本記事では離職率の調べ方をわかりやすく解説するとともに、国内企業を対象にした統計データや、離職率改善のアイデアを紹介します。

離職率の定義と調べ方

離職率とは、企業に在籍する全従業員のうち、特定の期間中に離職した従業員の割合です。調べるには「(離職した従業員数÷母数となる従業員数)×100」の計算式を用います。

一般的には、1年~5年程度の期間を設けて、その期間中に在籍した従業員や離職した従業員の数を式にあてはめることが多いです。例えば在籍する従業員が1,000人、1年間の離職者が50人なら、(50÷1,000)×100で1年間の離職率は5%という計算になります。

離職率が低ければ、企業に人材が定着していると考えられるため、従業員によって働きやすい環境であると推察されます。

一方、離職率が高い企業は、いわゆるブラック企業と認識されやすくなるため注意しなければなりません。実際には、離職率が高いからといって必ずしもブラック企業とは限りませんが、求職者からすると「離職率が高い会社はなにか問題があるのではないか」と不安要素になり得ます。

また、離職率が高ければ、会社にとっても人材の流出により生産性や競争力の低下につながるため、可能な限りの改善が望まれます。

自社の離職率の調べ方は種類によって変わる

離職率は、どの従業員を母数とするか、あるいはどの期間を対象とするかで、調べられる離職率の種類が異なります。離職率の種類とその計算方法は次の通りです。

  • 年度ごと1年間の離職率=(期初~期末の離職者数÷期初~期末の全従業員数)×100
  • 新卒で入社後3年以内の離職率=(新卒入社3年以内の離職者数÷新卒入社の従業員数)×100
  • 中途採用で入社後3年以内の離職率=(中途入社3年以内の離職者数÷中途入社の従業員数)×100
  • 最終学歴別の離職率=(大卒【高卒】の離職者数÷大卒【高卒】の従業員数)×100
  • 企業規模別離職率=(大企業【中小企業】の離職者数÷大企業【中小企業】の従業員数)×100
  • 男女別離職率=(男性【女性】の離職者数÷男性【女性】の全従業員数)×100

このように種類ごとに離職率を調べると、「女性の離職率が高いので、女性の働きやすい環境を整えれば人材が定着するのではないか」「新卒で入社後の離職率が高いが、中途採用者の離職率は低いので新卒社員の育成やフォローに問題があるのではないか」といったように、離職原因を探る一助になります。自社の状況に照らし合わせ、離職率を算出して積極的に分析してみましょう。

代表的な離職率の種類とデータ

自社だけでなく、業界や国内全体における大規模な統計の調べ方としては、厚生労働省の発表するデータを参照する方法もあります。代表的な離職率のデータをいくつか紹介します。

日本全体の離職率

厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、日本全体での令和4年度の離職率は15.0%です。つまり、6~7人に1人が1年の間に離職しているとわかります。

ただし、この数値には正社員だけでなく、非正規雇用のフルタイムおよびパートタイム労働者もすべて含まれます。就業形態別にみると、フルタイムで働く一般労働者の離職率は11.9%、パートタイム労働者の離職率は23.1%です。

出典:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」

産業別離職率

画像引用:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」図3-1 産業別入職率・離職率(令和4年(2022))

厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」では、産業別の離職率も発表されています。離職率が低い順に並べると、産業別離職率は次のとおりです。

  • 鉱業・採石業・砂利採取業:6.3%
  • 金融業・保険業:8.3%
  • 学術研究・専門・技術サービス業:10.0%
  • 製造業:10.2%
  • 建設業:10.5%
  • 電気・ガス・熱供給・水道業:10.7%
  • 複合サービス事業:11.0%
  • 情報通信業:11.9%
  • 運輸業・郵便業:12.3%
  • 不動産業・物品賃貸業:13.8%
  • 卸売業・小売業:14.6%
  • 教育・学習支援業:15.2%
  • 医療・福祉:15.3%
  • 生活関連サービス業・娯楽業:18.7%
  • サービス業(他に分類されないもの):19.4%
  • 宿泊業・飲食サービス業:26.8%

もっとも離職率が低い鉱業・採石業・砂利採取業は、石油やコンクリートの資材などを採取し供給する業種です。インフラを支える大企業が多く、専門性も高いため離職率が低いと考えられます。同じく離職率が10%を切る金融や保険業界は、成果主義で実力が給与に反映されるため、他の業種に比べて高い給与を得やすいのが特徴。給与の高さが離職率の低さにつながっていると予想できます。

一方、ワースト3はいずれもサービス業が占める結果となりました。サービス業は接客によるストレスや、勤務時間の長さ、土日の出勤といった、特有の離職理由も多い業界です。

ただし、これらのデータを算出した令和4年度においては、新型コロナウイルス感染症が流行しており、外出自粛の影響でサービス業界全体が打撃を受けていました。業績悪化に伴う離職者も増えていると予想され、今後はまたデータの傾向が変わってくる可能性もあります。

新卒3年後の離職率

画像引用:厚生労働省「新規学卒者就職率と就職後3年以内離職率」

厚生労働省「新規学卒者就職率と就職後3年以内離職率」によれば、新卒者の学歴別の離職率は次のとおりです。

  • 新規高卒就職者:37.0%(前年度と比較し1.1ポイント上昇)
  • 新規大学卒就職者:32.3%(同0.8ポイント上昇)

※令和2年3月に卒業した新卒就職者が対象

離職率は、大卒者より高卒者のほうが高い傾向にあります。また、例年3人に1人程度が離職している計算で、前述した国内全体の離職率(15.0%)と比べても2倍以上の数値になっています。

新卒3年後の離職率は、初めて社会人経験を積む人材が定着しやすい環境かどうかの指標として重視されています。新卒者の定着を図るためにも、ぜひ調べておき、国内のデータと比較してみましょう。

離職率を調べる際の注意点

離職率というとネガティブなイメージもあり、数値そのものを気にしがちです。しかし、離職率は算出方法や従業員の規模によっても数値が変化するため、あまり参考にならないケースもあります。そこで、離職率を調べる際に覚えておきたい注意点を解説します。

企業によって算出方法が異なる

離職率計算時にどの従業員を母数とするかや、算出対象の期間は企業によって異なります。そのため、複数の競合他社の離職率を比べたいと思っても、それぞれ算出基準が異なるために結果を一概に比較できない可能性があります。

例えば、対象にした期間が1年なのか、3年なのか、それとも5年なのか、あるいは全従業員を対象に計算したのか、入社人数をもとに計算したのかなどで、数値そのものや正確性が変化します。

もし離職率を比較したいのであれば、どのような計算方法で算出されたのかが明らかなデータだけを用いて比較する必要があります。

従業員数の少ない企業は離職率が高く算出されやすい

母数によっても結果に大きくぶれが生じる可能性があります。例えば、1,000人の会社で10人離職したとしても離職率は1%です。しかし、100人の会社で10人離職すれば離職率は10%となります。

離職率はあくまで割合であるため、規模が小さく従業員数の少ない企業ほど、高く算出されてしまう場合があるのには注意が必要です。

業種や規模によって離職率は変化する

仮に離職率が20%だったとして、その数値が高いのか低いのかは業界や企業規模によって異なります。

例えば新卒者に限ってみても、入社3年以内の離職率が高い傾向にある業界と、低い傾向にある業界があります。平均離職率が20%の業界であれば、離職率15%の会社は比較的働きやすい環境にあると考えられます。

一方、平均離職率が10%の業界で離職率が15%だと、同業他社より労働環境が劣っている可能性があります。

このように、数値だけでは離職率の高低は測れません。業界や、あるいは大企業か中小企業かによって離職率が変化するのを念頭に、データを分析するのが大切です。

信憑性の高い結果を得るには複数年の比較が必要

データを比較・分析する際は、できるだけ複数年のデータを用いましょう。1年だけのデータだと、その年にたまたまなにか事情があって離職率が高くなった可能性も考えられます。例えば近年だと、新型コロナウイルス感染症の影響で業績悪化した企業も少なくないありませんでした。

また、過去に離職率が非常に高かったものの、改善を重ねて離職率の低下に成功した企業があったとしても、1年のみのデータや、古いデータではその事実が確認できません。

そのため、信憑性の高い結果を得るには、できるだけ多くの期間、かつ直近のデータを集めるのが重要です。

離職率が高い企業の特徴

離職率が高い企業には総じていくつかの特徴があります。もし、自社の離職率の高さに悩んでいる場合は、次のうちいずれかにあてはまっていないかチェックしてみるとよいでしょう。

  • 長時間残業や休日出勤が多い
  • 業界平均より給与水準が低い
  • 福利厚生が少ない
  • 時短やフレックス、リモートなど、柔軟な働き方の整備がされていない
  • 昇進やスキルアップの機会が少ない
  • 研修や教育機会が少ない
  • パワハラやいじめなど人間関係のトラブルが多い
  • 社内コミュニケーション不足で意思を主張しにくい
  • 評価制度の公平性が不十分または透明性に欠ける
  • プレッシャーのある仕事が多い
  • 業務内容が単調でやりがいがない
  • 従業員の適性に合った業務が割り振られていない
  • 職場が汚い、設備が古い
  • 経営が不安定で将来の見通しが立たない

ただし、離職率が高い状況は必ずしも悪いことばかりではありません。例えば、離職率が高いと会社にとっては人材の新陳代謝が進みやすかったり、従業員にとっても昇進のチャンスが増えたりとポジティブな側面もあります。

また、「プレッシャーのある仕事が多い」は「責任ある仕事が多い」、「業務内容が単調でやりがいがない」は「安定した環境でスキルを磨ける」など、従業員にとって受け取り方が異なる場合も少なくありません。

離職率や、会社の風土、業務内容が従業員にどのような影響を与えているのかも改めて見つめ直し、改善が必要か判断しましょう。

離職率が高いことによるリスク

高い離職率には人材に関するコスト増加や企業のイメージ低下をはじめ、さまざまなデメリットがあります。

具体的な企業にとってのリスクは次のとおりです。

  • 採用コストが余計にかかる
  • 社内にノウハウが蓄積・定着しない
  • 人材不足で既存社員の負担が重くなる
  • 企業のイメージが低下し求人応募者や顧客が減少する

人材の流出が長期的に続くと、採用コストばかりがかかって従業員の育成が進まず、企業の生産性や競争力が低下してしまいます。また、育成した従業員が離職すれば、培った経験やノウハウも社内に還元されなくなります。経験豊かな従業員だからこそ対応できた業務を、新しく採用した人材がすぐに引き継ぐのは難しいでしょう。

さらに、企業のイメージが低下すると、企業で働きたいと考える求職者も減り、企業に魅力を感じなくなった顧客は離れます。人材不足に陥った企業では、既存従業員の負担が重くなり、既存従業員も離職を検討するという悪循環に陥ります。

このような状況に陥るのを回避するためにも、企業は能動的に離職率の上昇をくい止める必要があります。

離職率を下げるための改善策

離職率を下げるためには、離職率が高くなる原因を突き止め改善していくのが有効です。離職の原因によって、有効な改善策も変化します。いくつかの代表的な方法を紹介するので、自社で取り入れられるか検討してみてください。

従業員の業務量が適切か見直す

従業員の業務量が多いと、ストレスや過労、生産性やモチベーションの低下といったさまざまな悪影響が懸念されます。長時間労働が常態化している職場では、早急な改善が必要です。

業務内容の確認や、チーム内での業務分担の見直し、従業員からのヒアリングなどを通じて状況を把握し、必要に応じて業務を再配分しましょう。

また、残業に対して適切な対応ができているかも重要です。特に、サービス残業になっていると従業員の負担になるだけでなく労働基準法違反にもなるため、速やかに是正しなければなりません。従業員の勤務時間を記録、分析し、適切に管理しましょう。

有給消化率を高める

有給は従業員に認められる当然の権利です。従業員全員が、休みたいときに休みが取れる環境が整っているかをチェックしましょう。

制度があっても、有給を申し出にくい環境や、取得率が低い環境では意味がありません。有給休暇の取得目標を設定したり、あらかじめ日程を決めて取得してもらう計画的付与制度を導入したりして、取得を促進させる環境作りに努めましょう。

社内の風通しを良くする

人間関係が希薄だと、問題やトラブルの報告が遅れる、意思疎通が図れず連携が取れない、従業員が孤立してしまうといった、さまざまな問題が生じやすくなります。

日常的にコミュニケーションを取りやすい環境を作り、社内の風通しを良くするよう努めましょう。気軽にやりとりできる社内SNSやチャットツールを導入したり、あるいは社内イベントや表彰制度を取り入れるのもよい方法です。

コミュニケーションが活性化すれば情報の共有もしやすくなり、従業員は同じ目標に向かって進めます。企業のビジョンも明確になり、生産性の向上が期待できるでしょう。

相談窓口を設置する、目安箱で従業員の声を聞く

従業員が安心して働ける環境を整えるために、相談窓口や目安箱を設置してみましょう。例えばハラスメントのように直接相談しにくい問題がある場合でも、匿名で意見を届けられる仕組みがあれば発覚しやすく、調査や改善も容易になります。

また、従業員の意見を積極的に聞いて改善する姿勢により、従業員エンゲージメントも向上するはずです。従業員の声を真摯に受け止め、問題の早期解決を目指しましょう。

公平な評価方法を導入する

基準が明確で透明性の高い評価は、従業員の納得を得やすく、モチベーションアップにつながります。不透明、不公平な評価になっていないかチェックしましょう。

具体的には、どの行動をすれば評価が上がり、あるいは下がるのか評価基準が明確になっているのが大切です。評価基準は従業員全員が自由に確認できるようにすれば、透明性の高い評価ができ、従業員自身も評価を上げるためにどう行動すればよいのかわかります。

また、評価が1人だけではなく、複数名によっておこなわれているかも重要なポイントです。複数名での評価により視点の偏りがなくなり、公平性が保たれます。

多様な働き方に対応する

従業員のワークライフバランスを考慮し、リモートワークや時短勤務をはじめとする多様な働き方ができる環境を整えましょう。育児や介護を理由に離職を検討する従業員を支援できれば、離職率の低下につなげられます。

また、フルリモート勤務により遠方からでも働けるようにすれば、全国から求人応募が集まり、人材を得やすくなります。引越しや転勤の負担も少なくなり、従業員が生涯にわたって長く活躍できる職場が形成されます。

福利厚生を充実させる

福利厚生は従業員のエンゲージメントを向上させる効果があり、離職防止につながります。ただし、福利厚生は従業員のニーズにあっていなければ誰も使用しない可能性がり、意味がありません。

可能であれば、事前にアンケートを実施し従業員のニーズを把握するのがおすすめです。あるいは、従業員自身が福利厚生を選べるカフェテリアプランを導入する方法もあります。

また、現在すでに導入されている福利厚生については、利用率を算出し、従業員のニーズに合っているか、利用しやすい環境かどうかもよく検討し、必要に応じて見直しましょう。

キャリアアップの道筋を整える

従業員と話し合って本人の希望を確認し、早い段階でキャリアアップの道筋を整えましょう。入社後、自身のキャリアアップの道筋が思い描けなければ、従業員の不安につながり離職の原因となりえます。公平な評価方法の導入とあわせ、どのようにすればステップアップしていけるのかを明確に従業員へ提示するのが大切です。

道筋がわかっていれば、従業員は自身でキャリアアップのストーリーを描くことができ、目標に向かって能動的な行動ができます。

研修を充実させる

従業員のスキルアップはモチベーション向上につながります。身につけたスキルは一生を通じて役立つものです。研修や資格支援制度を整え、スキルアップを望む従業員を全力でサポートしましょう。

また、会社全体で研修や資格支援制度を整えるのは、従業員全体の能力底上げにもつながります。将来のリーダー候補となる優秀な従業員を逃さず積極的に育成すれば、会社の生産性は高まり、離職率の低下も期待できます。

まとめ

離職率は「(離職した従業員数÷母数となる従業員数)×100」で調べられます。どの母数や期間を対象とするかによって、社内全体の離職率や新卒に限定した離職率など、さまざまなデータを得られます。離職率は企業によっても算出基準が異なるため、比較する際は同じ条件で算出しているかどうかよく確認が必要です。

また、同じ数値でも離職率が高いか低いかは、業界や規模によって変化します。会社の属する業界や、同規模の競合他社の離職率も考慮したうえで判断が必要です。

離職率が高い場合は、人材の流出によりさまざまなリスクが懸念されるため、早急に改善しましょう。業務内容や評価制度の見直し、相談窓口の設置、福利厚生の充実など効果的な手段は数多くあります。どの方法が最適かを社内で検討し、着実な改善を目指しましょう。