平均勤続年数は一見長い企業が良く、短い企業は良くないと思われがちです。しかし実際は勤続年数が短いからといって、かならずしもブラックな企業であるとは限りません。このように、「平均勤続年数」は誤った認識をされることもある言葉です。

本記事では、平均勤続年数の目安や計算方法について解説します。平均勤続年数の長さに差が出るのは、どのような要因があるのか、勤続年数以外に企業が重要視するポイントはどこなのかをあわせて紹介します。

平均勤続年数とは?

平均勤続年数とは、従業員が同じ職場で働き続ける期間のことです。

ここでは、具体的な平均勤続年数の年数や計算方法を紹介します。正しい定義を知り、誤った認識で解釈しないようにしましょう。

令和4年度の平均勤続年数は12.7 年

国税庁から発表されている令和4年度「民間給与実態統計調査」によると、平均勤続年数は12.7年です。さらに詳しく見てみると、男性は14.3年、女性は10.4年という結果がわかります。

平成26年分まで遡ってみると、男女の平均勤続年数はおおよそ11年から12年の範囲で推移しています。平均勤続年数は長期間にわたり大きな変動のない状態が続いていると言えるでしょう。

出典:国税庁「民間給与実態統計調査

平均勤続年数の計算方法

平均勤続年数は、以下の計算方法で求められます。

  • 勤続年数の合計 ÷ 従業員数=平均勤続年数

入社日から現時点までの期間を端数切り上げで計算します。例えば、4月1日に入社し、翌年の3月31日まで勤務していれば勤続年数は1年の計算になります。4月1日以降も勤務していれば、勤続年数は2年になる計算です。

注意すべき点は「入社から退社日までの年数=平均勤続年数」ではないことです。在籍している従業員の勤続年数を基にしており、退社した従業員のデータは含まれていないため、誤った認識にならないよう気をつける必要があります。

平均勤続年数が長い企業の特徴3選

ここでは、以下3つの平均勤続年数が長い企業の特徴を紹介します。

  • 安定した経営状態や業績がある
  • 福利厚生が充実している
  • 研修制度やスキルアップが可能な体制を整えている

なお、ここでは平均勤続年数の平均である12.7 年の目安を基準に、それよりも勤続年数が長い企業にみられる特徴であることを前提として解説します。

安定した経営状態や業績がある

平均勤続年数が長い企業は、長く働いている従業員が多いことを示しています。経営状態や業績が安定していることで、リストラが起こりにくく、従業員を長期間にわたり守っているイメージが強くなります。

社会情勢や景気に左右されず、従業員を雇用し続ける力を持った企業であれば、従業員は安心して働き続けることが可能です。よって、経営状態や業績が安定している企業は、平均勤続年数が長くなります。

福利厚生が充実している

従業員の満足度につながる制度のひとつが福利厚生です。法定外福利厚生に多様な休暇、スキルアップやキャリアアップ、各種手当が含まれていると、長く働きたいと感じる従業員は多いでしょう。

出産や子育てに関連する福利厚生が充実している場合、出産育児で退職する人が減少します。安心して働ける環境が整うため、従業員が企業に長く留まる傾向が強まり、結果として平均勤続年数が伸びるのです。

研修制度やスキルアップが可能な体制を整えている

新人期間の研修が充実しており、安心して業務に入れる状態を整えている企業では、従業員の定着率が高くなります。さらに、資格取得の手当や休暇を支給する福利厚生も、研修の充実やスキル、キャリアアップのあと押しとなります。

不安やモチベーションの低下が少なく、ストレスがかかりにくい環境作りがされている企業では、従業員が安心して働き続けることができるでしょう。

平均勤続年数が短い企業の特徴3選

目安となる平均勤続年数よりも短い企業は、勤続年数が3年未満にとどまる企業もあります。

しかし、平均勤続年数が短いからといって、かならずしもブラックな企業というわけではありません。なぜなら、平均勤続年数が短くなりやすい企業には、以下のような特徴があるからです。

事業の拡大をしている最中である・採用活動に力を入れている

業績が好調で事業を拡大する方針のある企業は、人材を確保する必要があるため採用に力を入れます。つまり、入社したばかりの従業員が多くなるため、平均勤続年数も当然短くなります。

また、企業を買収して事業を拡大している場合も、平均勤続年数が短くなるでしょう。なぜなら、買収先の従業員が1年目の勤務年数とみなされるからです。よって、新卒や中途で多くの人材を採用した企業や買収によって新たな従業員が増える企業は、平均勤続年数に影響を受けやすい特徴があります。

創業して間もない企業である

会社が設立されてからまだ年数が浅い場合も、平均勤続年数が短くなります。企業の創業年数よりも平均勤続年数が長くなることはないからです。よって、創業間もない企業は必然的に平均勤続年数が短くなります。特にベンチャー企業やIT系の企業に多い傾向が見られます。

転職や独立する人が多い傾向にある業界である

退職者が多いことが、平均勤続年数の短さにつながります。平均勤続年数が短い代表的な業界や職種は、IT業界、コンサル、エンジニア、営業職です。これらの業界や職種は、スキルアップやキャリアアップを狙って、より良い条件の職場へ転職するケースが多い傾向にあります。

また、転職ではなく独立を目指す業界や職種もあります。仕事を休めない、人間関係が悪いなどのマイナスな理由からではなく、前向きな理由で転職する人が多い業界や職種は、平均勤続年数に影響を与えることがあります。

企業が平均勤続年数を重要視すべき理由

平均勤続年数は、求職者がその企業を知るためのデータのひとつです。平均勤続年数が短いことがデメリットになるわけではありませんが、企業を検討するうえで大切な情報となります。ここでは、なぜ平均勤続年数を重要視するのか、その理由を紹介します。

生産性アップにつながる

平均勤続年数が長い企業では、それぞれが効率よく働ける環境が整っています。業務を熟知している従業員が多いことや、退職者が少ないことから組織全体の生産性向上が見込めるからです。

退職者が多いと、残った従業員に業務負担が集中し、さらなる退職者を引き起こしてしまう恐れもあります。逆に、正確かつスピーディーに仕事ができる中堅の従業員が多くなれば、その分組織全体の生産性に大きく貢献できます。

企業のイメージアップにつながる

長く勤められる企業であり、従業員を大切にするというホワイトな印象を持たれることが多いでしょう。求職者にとって平均勤続年数が長いことは魅力的な選択肢となりやすく、優秀な人材の確保につながりやすくなります。よって、求職者が企業を選ぶ際の判断材料として、平均勤続年数は重要な要素となります。

平均勤続年数以外に注視されるデータとは?

求職者は企業を選ぶ際、平均勤続年数のほかどのようなデータを見ているのでしょうか。ここでは求職者が参考にしているデータを3つ紹介します。採用活動に生かせる部分がないかチェックしましょう。

企業の設立年月日や沿革

求職者は平均勤続年数のチェックと同時に、企業の設立年月日や沿革も確認しています。設立年月日と平均勤続年数を見比べることで、従業員が定着している企業かどうかを判断します。

特に、事業拡大によって大量採用したり、若手を増やしたりした背景がわかっていれば、平均勤続年数が短い場合でも不安度が減るでしょう。企業は、自社の歴史や成長の過程を明確に伝えることが求職者の理解を深める一助となります。

離職率と平均在籍年数

求職者は離職率や平均在籍年数にも注目します。平均在籍年数とは、退職した従業員の在籍期間の平均です。在籍年数が短いことは、退職までの期間が短いことを意味しています。どのような理由から短期間で退職するのか、求職者は不安に感じやすいでしょう。

離職率は、1年間に離職した人の割合を示します。離職率が高いと、早期で退職する人数が多く、従業員の入れ替わりが激しいことを示します。離職率の高い企業は、求職者にとってはネガティブな印象を与えてしまいます。

業績

企業の業績も求職者が注目する重要なデータです。平均勤続年数が長い企業でも、業績が悪化している場合は、採用活動が停滞している可能性があります。

求職者は長く勤められる企業を求めているため、業績や企業の規模も重要な判断材料となります。企業は、財務状況や成長見込みを明確に伝えることで、求職者に安心感を与えることができます。

企業が自社アピールするための工夫や対策

平均勤続を上げるには、従業員が企業に定着することが重要です。もしも人材の流出が多い、採用活動がうまくいかないなどが理由で平均勤続年数が短くなっている場合は、以下のような工夫や対策を実践しましょう。

働き方の見直しをする

従業員のニーズに合った働き方へ見直しを行うことが方法としてあります。具体的には、以下の点を検討してみましょう。

  • 休暇を増やす:有給休暇や特別休暇を増やし、従業員がリフレッシュできる環境を提供する
  • 残業を減らす:労働時間の短縮や効率化を図り、残業を減らすことでワークライフバランスを実現する
  • 働く場所や時間の柔軟性:テレワークやフレックスタイム制の導入により、従業員が働く場所や時間を自由に選べるようにする。

従業員のモチベーションを高めたり、ニーズに合った制度を導入したりすることで、従業員の満足度が向上し、離職率の低減につながります。近年、ワークライフバランスを重視する従業員が増えているため、働き方の見直しは特に重要です。

研修制度、人事制度の見直しをする

研修制度や人事制度の見直しも必要です。平均勤続年数が長い企業には、新人期間の研修が充実していることが多く、新人以外の従業員にもリーダー層の育成に力を入れている企業もあります。具体的には、以下の点を検討してみましょう。

  • 新人研修の充実:新人が安心して業務に取り組めるよう、研修制度を整備する
  • キャリアパスの提供:社内でさまざまなキャリアに挑戦できる環境を整える
  • リーダー育成:リーダーシップ研修やマネジメント研修を実施し、中堅・管理職のスキルアップを図る

新人や中堅社員が長期間にわたって成長できる体制を取り入れる工夫が必要です。

福利厚生の見直しをする

福利厚生が手薄な場合や、しばらく制度の内容が変わっていない場合は、福利厚生の見直しを検討しましょう。従業員が仕事とプライベートを両立させられるような福利厚生を提供することで、従業員の満足度を高められます。具体的には、以下の対応を検討しましょう。

  • 従業員の意見を取り入れる:福利厚生に対する満足度調査を実施し、不要なものは廃止し、従業員が求めるものに変更する
  • ユニークな福利厚生の導入:独自の福利厚生を導入することで、自社のアピールやイメージアップ、他社との差別化を図る

例えば、スポーツジムの利用補助やリラクゼーション施設の提供、育児支援など、従業員のライフスタイルにあわせた福利厚生を導入することで、従業員の満足度が向上し、企業の魅力が高まります。

まとめ

企業にとって平均勤続年数は大切な指標のひとつです。令和4年度の調査結果では、平均勤続年数は12.7年(男性14.3年、女性10.4年)で、近年その年数に大きな変化はありません。

平均勤続年数が短い企業では、なぜ短いのかを明確にさせることで求職者の不安を解消できるでしょう。採用活動に力を入れている、創業して間もない、前向きな転職者が多いなどの理由であれば、悪い印象は持たれないでしょう。

平均勤続年数の目安は、求職者にとって企業選びのひとつにもなりますが、企業の設立年月日や沿革、離職率、業績なども注視します。企業が自社をアピールするためには、働き方の見直し、充実した研修制度や人事制度、福利厚生の充実などを提供することが重要です。