企業型確定拠出年金について調べると、「ひどい」という検索結果が出てきて不安に思う人もいるのではないでしょうか。企業型確定拠出年金は、制度の内容や注意点を知っていれば安心して活用できる制度です。
本記事では、企業型確定拠出年金が「ひどい」と言われる理由や、制度の魅力、導入時の注意点を解説します。老後に向けて自助努力が求められている現代人にとって、企業型確定拠出年金は味方となってくれる制度のひとつです。ぜひ参考にしてみてください。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?
企業型確定拠出年金とは、導入している企業が掛け金を拠出し、従業員がその掛け金を運用する制度です。「企業型DC」や「401k」と呼ばれています。
運用益が非課税となるため、税負担なしで資産運用が可能です。老後の資産形成を目的としているため、運用した資産は原則60歳以降にならないと受け取れません。
元本保証のない投資先もあるため、制度全体だけでなく、商品の持つリスクを理解したうえで運用する必要があります。
企業型確定拠出年金がひどいと言われる理由とは
企業型確定拠出年金は、ときに「ひどい」と言われます。しかし、これは企業側が十分な説明や対応ができておらず、さらに従業員の理解度が浅いケースに多いようです。
ここでは、「ひどい」と言われる5つの理由から、どのような対策が取れるのかを解説します。
従業員が投資の知識が不十分なまま利用している
運用する本人が制度の仕組みを正しく理解していなかったり、投資の知識がまったく備わっていなかったりするケースが多く見受けられます。また、その状況を企業が放置してしまっていることも大きな問題です。
運用先をなんとなく選んでいる、もしくは投資先のリスクを理解していないまま運用をしていると、従業員にとって将来不利益になる可能性があります。
例えば、元本割れを恐れて定期預金を選択し長期間運用したとします。低金利の影響から定期預金の商品では運用益が多く得られず、企業型確定拠出年金のメリットが生かしきれません。
企業側はセミナー開催や研修を定期的に実施して、企業型確定拠出年金の制度理解に努めたり、従業員の投資リテラシーを上げたりする必要があります。
60歳まで引き出せない
老後の資産形成を目的としているため、原則60歳までは積み立てた資金は引き出せません。企業型確定拠出年金だけでなく、個人が利用できるiDeCoも同様のしくみです。
急な出費や大きな資金が必要になった場合でも、積み立てたお金を必要なときに引き出せない点が大きなデメリットです。一方で、一度手続きをしてしまえば60歳まで強制的に積み立てられる点をメリットに感じる人もいます。
手元に現金があると使ってしまう、お金をおろせる環境だとついつい引き出してしまう、そんな人にとっては、確実にお金を積み立てていける制度です。
将来受け取る金額が決まっていない
企業型確定拠出年金の受け取り金額は、運用成績によって変動します。そのため、将来いくら受け取れるのかは、そのときにならないと確定しません。運用成果によっては、元本割れするリスクも考えられます。
一方で、元本確保型の商品を選択することで、元本割れのリスクを防げます。しかし元本確保型は利率が低く、資産が増えないため企業型確定拠出年金のメリットを生かせません。
運用初期は元本変動型で資産を増やし、受給年齢が近づいてきたら資産が減らないように元本確保型へ入れ替える方法がおすすめです。そうすることでリスクを減らしながら、将来の資産を確保できます。
企業が決めた金融機関や投資先の商品からしか選べない
企業型確定拠出年金の運用管理機関や投資商品は企業が決めます。場合によっては、従業員が希望する商品がラインナップに含まれていない可能性があるでしょう。
拠出するのは企業側ですが、将来の資産に直結する運用先を決定するのは従業員です。企業側に求められるのは、従業員の投資に関するニーズや希望を事前にしっかりと把握することです。
満足度を高め、より効果的な資産形成を支援できるよう、企業は慎重に運用管理機関を選びましょう。
退職後についての説明が不十分
企業型確定拠出年金では、退職後6か月以内に他の年金制度への移換手続きが必要です。しかし、多くの企業では移換手続きの重要性や、手続きしなかったときに受ける影響についての説明が不十分になりがちです。
退職後の進路によって移管先が異なりますが、手続き期限は共通して6か月です。手続きをせず放置すると、これまで積み立てた資産は現金化され、国民年金基金連合会に移管されます。
そうなると、管理手数料の発生だけでなく運用自体ができなくなり、積み立てたお金がどんどん減っていってしまう恐れがあります。そのため、企業は退職時の移換手続きの方法や手続きの期限などを正しく伝えなければいけません。
企業型確定拠出年金と類似している制度
企業が導入する年金制度には、企業型確定拠出年金と類似している制度がいくつかあります。それぞれの特徴やしくみを理解し、自社に適した制度を選択できるように確認してきましょう。
選択制企業型確定拠出年金(選択制DC)
従業員が受け取る給与のうち、一部を拠出するか、全額を給与として受け取るかを自分で選択する制度です。
例えば、月の給与30万円のうち1万円を選択制DCに拠出し、29万円を受け取る、もしくは拠出せずに30万円をそのまま受け取るようなイメージです。
企業型確定拠出年金では全従業員が加入するのが原則ですが、選択制DCでは拠出するかどうかを従業員自身が決定できます。掛け金は給与としてみなされないため、所得税や住民税、社会保険料の負担を軽減することも可能です。
また、企業にとっても費用負担が大きくならずに済むメリットがあります。企業、従業員どちらにとってもメリットがあることから、近年多くの企業で導入されています。
マッチング拠出
マッチング拠出は、企業が拠出する金額に対して従業員が自ら資金を上乗せして運用する制度です。従業員の拠出限度額は、企業の拠出額を上限としています。
従業員が拠出した額に対して所得控除が適用されるため、従業員の税負担を軽減できます。将来の資産原資を増やせるだけでなく、減税もできる魅力的な制度です。
確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金(DB)は、従業員が受け取る給付金の額があらかじめ確定されている年金制度です。確実に老後の年金を確保できるため、従業員にとって安心感のある制度です。
一方で、企業にとっては不安要素を持つ制度でもあります。年金の原資になる資産の運用は企業が実施します。万が一運用成果が悪かった場合、不足した差額分は企業が負担しなければいけません。魅力的な福利厚生ではありますが、メリットとデメリットを考慮する必要があります。
企業型確定拠出年金のメリット
企業型確定拠出年金を利用すると、次のような3つのメリットがあります。
- 掛け金や手数料は企業負担
- 税控除を受けられる
- 選択制DCの場合は社会保険料の削減効果を得られる
従業員の満足度が高まれば、離職率の低下やエンゲージメントの結果にいい影響がもたらされます。導入する企業側がしっかりと企業型確定拠出年金の良さを理解しておくことが重要です。
掛け金や手数料は企業負担
従業員にとってメリットとなるのが、掛け金や手数料の負担がないことです。例えば、個人型確定拠出年金(iDeCo)では、加入時にかかる手数料のほかに、口座管理手数料や掛け金の拠出が必要です。
企業型確定拠出年金は従業員の大きな負担がなく、企業が用意した制度によって老後資金の形成ができます。
税控除を受けられる
企業確定拠出年金では、次の3つの場面で税制優遇が受けられます。
項目 | メリット |
---|---|
運用時 | 運用益が非課税一般的な投資商品は、運用益に対し約20%の課税がある |
受け取り時 | 一時金:退職所得控除額年金形式:公的年金等控除 |
マッチング拠出 | 掛け金が全額所得控除の対象 |
税制優遇によって、従業員にとってより効率的に老後資金の準備が可能となります。
選択制DCの場合は社会保険料の削減効果を得られる
選択制企業型確定拠出年金(選択制DC)を選んだ場合、拠出する掛け金は全額控除の対象になります。所得税や住民税、健康保険料や厚生年金保険料の税負担を軽くできる点が大きなメリットです。
一方で、社会保険料が削減されるため将来受け取れる厚生年金の金額にも影響があることに注意が必要です。メリットとデメリット、双方を理解して制度を利用することが重要です。
企業型確定拠出年金を導入する際に注意すべきこと
ここでは、導入時に気をつけるべきポイントを解説します。導入するまでの流れに沿って解説しているので、不安事があればしっかり解消しながら進めていきましょう。
企業型確定拠出年金を導入する目的を明確にする
企業型確定拠出年金を導入する際には、目的を明確にすることが極めて重要です。導入運用には一定のコストがかかります。現在直面している課題や問題を正確に把握し、解決するための手段として適切な選択かどうかを判断する必要があります。
また、導入後の運用計画も事前に策定します。制度が企業と従業員双方にとって利益をもたらすように準備しておけると安心です。
自社にあった制度か比較検討をおこなう
企業型確定拠出年金は、一度導入すると簡単に廃止することはできません。自社にとって最適な退職金制度かどうかを慎重に検討する必要があります。
自助努力が必要とされている現代では、多様な退職金制度や年金制度が存在しています。それぞれの制度が持つメリットとリスクを比較し、自社の財務状況や従業員のニーズに合ったものを選ぶことが重要です。
退職金制度には、確定給付企業年金のような制度以外に、自社内での資金準備や退職金共済、保険の活用などの方法もあります。
導入には「規約」の作成と従業員の同意が必要である
どのような制度設計にするかを明確にし、確定した内容に基づいた規約を作成する必要があります。規約では、次のような重要事項を定めます。
- 加入者の範囲
- 掛け金の額
- 給付の内容
- 選べる運用商品の種類など
全て法令に準じたもので定めなければいけません。また、制度の導入には労働組合の同意が必須であり、労働組合が存在しない場合は従業員の過半数からの同意が必要です。
規約の作成が完了し、必要な同意を得たら、地方厚生局長への申請をします。導入プロセスは複雑であるため、専門家のアドバイスを受けながら進めましょう。
従業員に対する金融教育を継続的におこなう
企業型確定拠出年金を導入するにあたり、従業員に対する金融教育の継続的な提供が必要です。従業員自身が運用をおこなう仕組みであるため、適切な金融知識が必須となります。
投資に関わるリスクの理解や、選べる商品の特性を正しく把握することで、効果的な資産形成が実現できます。さらに、退職後の対応についても徹底した情報提供が必要です。
まとめ
企業型確定拠出年金は、企業と従業員双方にメリットをもたらす制度のひとつです。企業にとって、優秀な人材の確保や従業員の満足度向上、離職率の低下といった、企業の安定につながる制度です。従業員にとっては、自身の将来の資産形成を支援してもらえる魅力があります。
ただし、企業が導入を決定する場合は、導入の目的を明確にして慎重に検討することが重要になります。一度導入すると、簡単に廃止できる制度ではありません。自社と従業員のニーズにあっているのか、他の商品や制度と比較しながら検討することが大切です。