企業の福利厚生は、従業員の働きやすさや満足度を高める重要な要素です。時代の変化や多様な働き方に対応するためも、定期的に福利厚生の見直しは必須です。本記事では、企業が福利厚生を見直す際のポイントやメリット、具体的な手順について詳しく解説します。

自社にとって最適な福利厚生を導入し、従業員と企業双方にメリットのある見直しができるようにしましょう。

企業が抱える福利厚生への課題点

企業が福利厚生の見直しを検討する際は何かしらの理由があるはずです。しかし、なかにはその理由がはっきりとしていないため、見直すべきなのかわからないというケースもあるでしょう。

ここでは福利厚生に対してよく挙げられる、企業が感じやすい2つの課題を紹介します。どのような福利厚生が自社の課題点になりそうかを確認してみましょう。

認知度や利用率の低さ・偏り

1つ目の課題として、福利厚生導入後の認知度や利用率の低さ・制度の偏りが挙げられます。自社で導入している福利厚生の利用率の低さには、以下のような原因があります。

  • そもそも福利厚生の内容を把握していなかった
  • 知っていたが、必要性を感じず利用していない
  • 知っているが、利用しにくいため使わない

認知されていないケースが多ければ、周知徹底の方法から見直しが必要です。また、従業員のニーズに合わない制度を導入していては、コストだけがかかり無駄になってしまうでしょう。

福利厚生はすべての従業員が平等に利用できる制度ですが、年齢・性別・家族構成・ライフスタイルによって、福利厚生のニーズや利用のしやすさが異なることを理解しておかなければなりません。従業員によって不平等さや不満が発生しないような工夫が必要です。

運営の手間と運用コスト

2つ目は、福利厚生の導入や継続には運営には手間やコストがかかることです。

一般的に福利厚生を導入する際、主に以下のような工程があります。

  • 申請のための書類作成
  • 規定・マニュアルの策定
  • 従業員への周知

このように福利厚生の導入にはある程度の作業コストがかかります。

また、福利厚生の利用者が増えることによって、企業が負担する費用コストも増大します。安易に導入してしまうと運営や継続が難しくなる可能性も考えられるでしょう。効果的かつ経済的に安定した福利厚生制度かどうかを定期的に検証してみる必要があります。

福利厚生の見直しが必要な理由

企業が抱える課題点以外にも、見直しを検討する理由が大きく2つあります。特に昔からずっと福利厚生の内容が変わっていないという場合は、今の時代に合っていない可能性があります。

別の角度から見直しが迫られる理由を知ることで、さらに効果的な福利厚生の見直しが実現できるでしょう。

変化する働き方

2019年に施行された「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」によって、企業は労働時間管理や有給休暇の取得、正社員と非正規社員の待遇解消を求められるようになりました。

つまり、新しい働き方を実現するために、企業は福利厚生への反映や現状からの見直しを検討しなければいけまけん。

参照:厚生労働省「働き方改革関連法」の概要

労働者の多様なニーズ

現代では、年齢や性別関係なく働き方に対してさまざまな考えやニーズが出てきています。以下は、従業員が抱えている働き方への希望やニーズの一例です。

  • 働く女性が増え、妊娠・出産後も働きたい
  • 60歳以上(定年後)でも働き続けたい
  • 仕事とプライベートを区別させたい など

厚生労働省が公表した「第一子出産前後の妻の継続就業率・育児休業利用状況」によると、約7割の女性が第1子出産後も就業を継続しています。

また、同省の「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」」では、31人以上規模企業における60歳以上の常用労働者数は約457万人、21人以上企業規模における60歳以上の常用労働者数は約486万人です。60歳以上の常用労働者数は平成26年から毎年右肩上がりに増加しており、60歳以降も働きたい人が多いことを示しています。

このように、労働者の多岐にわたるニーズによって、現代に適した福利厚生が求められるようになってきています。近年は、働き手が働きやすいと感じる環境が整備されていることや、暮らしを支えてくれるような福利厚生が注目されていると言えるでしょう。

出典:厚生労働省「第一子出産前後の妻の継続就業率・育児休業利用状況」
出典:厚生労働省「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」

福利厚生を見直しするメリット

企業が福利厚生を見直すことによって、従業員はワークライフバランスを整えられたり、経済的不安の解消につながったりします。また企業側にとっても、離職率の低下や生産性の向上の期待が持てるでしょう。

従業員の満足度が上がることで離職率も下がることから、従業員と企業の双方にとって福利厚生の見直しは大きなメリットがあると言えます。

従業員にとってのメリット

福利厚生のジャンルによって従業員が得られるメリットは異なります。以下は福利厚生のジャンルと得られるメリットの一例です。

福利厚生のジャンル従業員が得られるメリット
休暇の取得促進介護・育児の支援プライベートを充実させ、モチベーションアップにつながる介護や育児と仕事の両立が可能になるワークライフバランスを整えられる
資格取得支援スキルアップができるため、やりがいを感じたり収入アップにつながったりする
各種手当経済的不安が軽減され精神的安定につながる

充実した福利厚生は、働くモチベーションの維持・向上や、将来への不安の軽減につながります。よりよい環境を求めて、転職をする必要もなく、安心して長期的に働けます。

企業にとってのメリット

福利厚生は従業員のための制度ですが、企業側にも以下のようなメリットがあります。

  • 優秀な人材の確保が可能になり、従業員が定着しやすくなる
  • 自社をアピールする材料となる
  • 離職率が低下し、満足度の高い従業員はより生産性高く就業する傾向にある
  • 企業の考えや理念、想いなどを伝える手段となるため、従業員と企業双方の考えに乖離ができにくくなる
  • ワークライフバランスが実現し、業務改善につながる。結果、従業員のモチベーションが高まったり、業務効率化・品質向上にもつながったりする

福利厚生の見直しは、企業にとってコストや手間がかかります。しかし、得られるメリットも大きいため、自社にとってよりよい福利厚生が導入できるように検討しましょう。

福利厚生を見直すタイミング

どのようなタイミングで福利厚生の見直しをおこなえばよいのでしょうか。一般的に以下のような状況になったら、福利厚生の見直しに適切なタイミングだと言えます。

  • 時代の変動や人々の意識改革の時期(新たな生活習慣の採用など、社会の動向と人々の考え方が大きく変わるとき)
  • 福利厚生の施策や体制に影響を与える可能性のある政府の発表、法律の改正、または事件・事故のニュースが出た場合
  • 自社の就業規則を見直すとき
  • 新しく福利厚生制度を導入するとき(既存制度との整合性を確認する必要があるため)

このようなタイミングで社内アンケートを実施し、結果応じて見直しの必要性を検討しましょう。また、定期的に福利厚生を見直す場合は、同時に就業規則の見直しも実施するのがおすすめです。

福利厚生の見直し前は現状把握が必須

福利厚生の見直しする場合は、事前にアンケートなどで調査をおこない、現状把握をしておくことが大切です。調査なしに突然新しい制度を導入したり、現在の制度を廃止したりすると、従業員の不満や戸惑いにつながかねません。

ここでは、現状把握をするための調査方法を解説します。

認知度・利用率・満足度の調査

1つ目は現在の福利厚生について、認知度や利用率、満足度をヒアリングしましょう。アンケートの結果とランニングコストを照らし合わせ、費用に見合う制度であるかを確認します。

情報収集の際、自動集計できるアンケートツールを使用れば、集計する側と回答する側、双方にとって負担がかかりにくいです。

利用率低迷の原因調査

アンケートの結果、利用率の低かった福利厚生については、利用されない原因を解明する必要があります。従業員が利用しない、もしくは利用しにくいと感じる理由がどこにあるかを把握しましょう。

例えば、福利厚生の内容自体は良いものであっても、従業員が手間やコストがかかると感じれば、必然的に利用する人は少なくなります。また、福利厚生を利用できる環境が整っていなければ、本当は利用したいのに利用できない状況となってしまいます。

どのように改善すれば従業員が制度を利用しやすくなるのかを考えましょう。

福利厚生の見直し手順

福利厚生の現状把握を行い、見直しの準備が整ったら、実際に見直すための作業に取りかかります。ここでは、見直し手順となる3ステップを解説します。

1.改善案の作成と新規制度導入の比較検討する

社内アンケートで把握した課題やニーズをもとに、既存の制度を改善するのか、もしくは新たな制度を導入する方法で検討します。

新しい制度を導入する際は、経営層や従業員など多方面から意見を募り、制度の内容、利用率の見込想定、かかるコストを考慮して優先順位をつけながら比較検討を進めましょう。

2.計画以上の経費(コスト)がかかっていないか確認する

福利厚生は福利厚生費に計上できます。しかし、福利厚生にかかる費用は事業利益を使うため、導入したい福利厚生と計画した予算が見合うかどうかを慎重に精査することが大切です。

また、福利厚生費として認められるのは、すべての従業員が対象となること、金額が常識の範囲内で妥当であること、現金支給ではないことの3つが条件です。これらの条件に満たない場合は福利厚生費として計上できないので注意しましょう。

予算を計画する際は、目先のコストだけにとらわれず、将来を見据えることも忘れないようにしましょう。例えば、ユニークな福利厚生は、採用活動や会社のブランディングにつながる可能性もあります。人材確保は企業の将来性にも寄与するため、どの程度までならコストをかけても大丈夫なのか十分に算出しておくのがおすすめです。

3.制度導入・従業員への周知・検証

改善案・導入案が決定したら、いよいよ導入するフェーズに入ります。制度の細部設計、社内規定の作成や修正、従業員への周知を実施しましょう。

導入後は、定期的に社内アンケートを実施して、利用状況の確認を行います。利用率や認知度を把握し、新たな改善点や課題がないか定期的にチェックすることが大切です。

福利厚生の見直しで注意すべきポイント

企業が福利厚生を見直しするときに気をつけておくべきポイントは以下の3つです。

  • 福利厚生の変更・廃止は従業員の合意が必要
  • 従業員間での不公平さがなく、条件・待遇が同じかを確認する
  • コストに見合った福利厚生制度か確認する

それぞれ詳しく解説していきます。

福利厚生の変更・廃止は従業員の合意が必要

企業側による一方的な福利厚生の変更・廃止は不利益変更に該当する恐れがあります。不利益変更とは、従業員の生活に大きな影響を与えるような労働条件の変更を実施することです。

福利厚生の不利益変更については、労働契約法第8条・第9条・第10条にて詳しく明記されています。

  • 労働契約法第8条

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

  • 労働契約法第9条

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

  • 労働契約法第10条(一部抜粋)

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

引用:労働契約法 | e-Gov法令検索

つまり、従業員にとって不利益な変更や廃止になる可能性がある場合は、必ず従業員の合意が必要です。また、変更が合理的であることや労働者に変更後の就業規則を周知させることが条件となります。

従業員間での不公平さがなく、条件・待遇が同じかを確認する

福利厚生とは、勤務形態が異なる場合でも、働くすべての人が平等に受けられるものです。よって、正社員と非正規社員で待遇や条件が異なるような不平等さが生じてはいけません。また、不平等さを是正する法的義務もあります。

特に注意しないとならないのは、職務内容に違いのない正社員と非正規社員です。非正規社員にも、社員と同等の待遇を受ける権利があるので注意しましょう。

また、従業員間の待遇の格差解消を試みた結果、内容を手厚くしすぎてコストがかかりすぎる可能性もあります。従業員の満足度を保ちつつも、費用が大きくなりすぎないようにバランスを取ることが大切です。

コストに見合った福利厚生制度か確認する

コストと制度内容のバランスが保てるよう、慎重に検討しましょう。どちらかが偏ると、新たな課題が生まれてしまい、再度検討しなければなりません。

効果見込みがないものに費用をかけたり、コストを削減しすぎて満足度の低い結果になったりしては、見直しにかけた時間や労力が意味のないものになってしまいます。福利厚生は、導入後も定期的にコストに見合っているか検証することが大切なのです。

【ジャンル別】福利厚生の種類や特徴と効果

最後に福利厚生にはどのような種類、特徴、効果があるのかを解説します。自社に最適な福利厚生を見極める意味でも、福利厚生の全体像を把握しておきましょう。

「休暇」に関する福利厚生

法定福利厚生に該当する、年次有給休暇・育児休業・子の看護休暇を除く休暇制度です。

【例】
  • リフレッシュ休暇
  • アニバーサリー休暇
  • バースデー(誕生日)休暇
  • 慶弔休暇

仕事とプライベートを分けることで充実度が高まる効果が期待できるため、独自の休暇を設けている企業も多くあります。

「時間」に関する福利厚生

勤務時間に関わる福利厚生です。多様化するライフスタイルに対応し、従業員が働き続けられる環境を提供します。

【例】
  • 短時間勤務制度
  • フレックス制度
  • 時差出勤制度
  • ノー残業デー

ワークライフバランスの充実や、家庭との両立を叶えたいニーズに応えられる制度です。

「自己投資」に関する福利厚生

自身のスキルアップ・キャリアアップのために利用できる福利厚生です。

【例】
  • 資格取得支援制度
  • 書籍の購入補助
  • 研修・セミナー参加費用の補助
  • リスキング支援制度

企業としても、従業員のスキルアップにより生産性や効率性がアップするため、より双方にメリットが感じやすい制度と言えるでしょう。

「健康」に関する福利厚生

従業員の健康を守ることは、企業の生産性、存続にも関わるため大変重要です。

【例】
  • 健康診断費用補助
  • メンタルヘルスケア
  • 食事手当
  • 提携飲食店やスポーツジム利用補助
  • 団体保険制度

従業員は、企業から労わってもらえている、大切にされていると感じられ、安心して働くことができます。

「余暇・買いもの」に関する福利厚生

従業員のモチベーションアップや、従業員同士のコミュニケーション活性化に効果が得られる制度です。

【例】
  • 社員旅行、交流会、親睦会
  • ECサイト購入でのポイント補助
  • 宿泊施設・サービス利用補助

従業員のモチベーションが向上すれば、業務の生産性や効率化の向上も期待できます。また、日常生活の買いもので使える福利厚生の利用検討も可能です。自社のアピールポイントとしても打ち出しやすいメリットがあります。

「お金」に関する福利厚生

お金に関する福利厚生は、経済的な支援が可能な制度で、従業員の日常生活に直結します。

【例】
  • 財形貯蓄
  • 企業型確定拠出年金
  • 住宅手当
  • マネーリテラシー向上のための研修や金融相談

将来に向けた積立制度や、マネーリテラシーをつけるための知識を提供します。人はお金への不安がストレスに感じやすい傾向にあります。つまり、充実感や幸福感を得るためには、自分でお金の正しい管理用法や知識をつけることが重要です。

福利厚生サービスで経済的な健全性を確保できれば、将来に向けて安心を感じられるので、従業員のエンゲージメント向上につながります。

まとめ

企業の福利厚生には、認知度・利用率の低さ、運用コストの高さなどの課題が挙げられます。また、従業員が利用しにくい制度は無駄なコストとなっている可能性があります。

変化する働き方や多様な労働者のニーズに対応するためにも、企業は定期的に福利厚生の見直しをする必要があります。従業員の声を聞くためにも、社内アンケートを実施して、どのような福利厚生を導入すればよいのか分析と検証を行いましょう。

福利厚生の変更や廃止は従業員の合意がいるため、容易ではありません。目先のコストだけにとらわれると従業員のニーズからそれてしまう可能性があります。とはいえ、過度な福利厚生はコストがかさみ継続が難しくなってしまう恐れもあります。あらかじめ設定した予算とバランスが取れているかを慎重に精査して、自社にあった福利厚生を導入しましょう。