えっ? 配当課税が変わる?

2021年12月10日に公表された税制改正大綱によると、2024年度の個人住民税から配当課税が変わります。
特に、投資信託や株式を保有しており、国民健康保険に加入する人や児童手当を受給している人には影響がある可能性があります。
上場株式の配当所得を前提に、税制改正大綱の内容、背景とその影響についてお話しします。
従来、所得税と住民税では異なる方法を選択できた

上場株式の配当や公募株式投資信託の分配金(普通分配金)(以下、配当金等といいます)は、受け取る際に所得税15.315%、住民税5%が源泉徴収されています。
その後、配当金等を受け取った個人投資家は、
「何も申告しない(申告不要)」
「総合課税で確定申告する」
「申告分離課税で確定申告する」
のいずれかを選択できます。
確定申告が面倒な人は、税務上の特典はありませんが、何もしなくて大丈夫です。
一方、総合課税で確定申告をすると、配当控除による所得税、住民税の軽減
申告分離課税で確定申告をすると、上場株式や株式投資信託の譲渡損失との損益通算、繰越控除による所得税、住民税の還付
という特典があります。
つまり、上場株式等の譲渡損失が発生した年や、以前3年以内に発生した譲渡損失があり、繰越が終わっていない損失が残っている場合は、申告分離課税が有利であり、それ以外の場合には、申告不要または総合課税が有利とされています。
配当控除は所得税では有利になる場合もあるが、住民税では不利
課税総所得金額等の金額が1,000万円以下の場合、所得税の配当控除は配当所得の10%、住民税の配当控除は配当所得の2.8%です。
(以下、課税総所得金額等が1,000万円以下を前提とします)
所得税は所得が高くなるほど税率が高くなるため、税率が低い人ほど、配当控除は有利となります。
課税総所得金額等 | 所得税率 (A) | 配当控除を適用した 場合の税負担(B) A-10% | 所得税 源泉徴収税率(C) | 確定申告した場合の税金上の 有利不利 B>C 不利 B<C 有利 |
195万円以下 | 5% | ▲5% | 15% | 有利 |
330万円以下 | 10% | 0% | ||
695万円以下 | 20% | 10% | ||
900万円以下 | 23% | 13% | ||
900万円以上 1,000万円以下 | 33% | 23% | 不利 |
※復興特別所得税の影響を考慮しない
住民税は一律10%ですので、配当控除を適用すると、10%―2.8%=7.2%となるため、総合課税で確定申告をすると不利、申告不要(源泉徴収のみ(5%))のほうが有利になります。
そのため、所得税では総合課税を選択して配当控除を適用し、住民税では申告不要を選択するという方法をとることで、税負担を抑えることができました。
なお、2021年分の所得税の確定申告書からその手続きが簡素化され、所得税の確定申告書第二表の下段に「特定配当等(・特定株式等譲渡所得)の全部の申告不要」の欄に〇印をつけるだけで手続きができます。
確定申告書B

確定申告書A

2024年度の個人住民税から所得税と住民税では同じ課税方式に

しかし、2024年度の住民税(住民税は前年所得課税ですので、2023年の所得にかかる住民税)から、所得税の申告方式と同じ方式としなければならなくなります。
2021年分の確定申告書から書式が変わり、多くの方に住民税の申告不要手続きが簡単にできることを普及啓蒙していこうと考えていたのですが・・・。
「青天の霹靂」とはこのことをいうのでしょうね。
つまり、所得税で配当控除を適用するため、総合課税により確定申告をすると、自動的に住民税も総合課税で計算するため、住民税では必ず不利になります。
所得税、住民税を合算して計算すると、課税総所得金額等が695万円を超える場合、総合課税で確定申告をすると不利となります。
課税総所得金額等 | 所得税率 (A) | 配当控除を 適用した場合の税負担(B) A-10% | 配当控除適用による住民税(C) 10%-2.8% | 配当控除 適用後の所得税・ 住民税(D) B+C | 配当控除 適用後の所得税・ 住民税(D)B+C | 確定申告した場合の税金上の有利不利 D>E 不利 D<E 有利 |
195万円以下 | 5% | ▲5% | 7.2% | 2.2% | 20% | 有利 |
330万円以下 | 10% | 0% | 7.2% | |||
695万円以下 | 20% | 10% | 17.2% | |||
900万円以下 | 23% | 13% | 20.2% | 不利 | ||
900万円超 1,000万円以下 | 33% | 23% | 30.2% |
※復興特別所得税の影響を考慮しない
住民税の負担増の影響を甘く見てはいけない 社会保険料や給付への影響は甚大

所得税、住民税の税負担だけを見れば、課税総所得金額等が695万円以下の場合は配当所得について総合課税により確定申告をしたほうが有利となりますが、住民税の負担増の影響は住民税だけに留まりません。
住民税(住民税額または住民税の所得金額、旧ただし書き所得等、以下「住民税等」)を基に計算するものは非常に多くあります。
配当所得について総合課税で確定申告をすることで住民税等が増えると、配当金に対する税金の負担が増えるだけでなく、
- 自営業者が加入する国民健康保険が高くなる
- 75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度の保険料が高くなる
- 65歳以上の介護保険の保険料が高くなる
- 75歳以上の医療費の自己負担割合が1割から、2割または3割になる可能性が高くなる
- 65歳以上の介護保険の自己負担割合が1割から、2割または3割になる可能性が高くなる
- 高額療養費の自己負担限度額が多くなる可能性がある
- 高額介護サービス費の自己負担限度額が多くなる可能性がある
- 高額介護医療合算療養費の自己負担限度額が多くなる可能性がある
など、社会保険料の負担が増え、医療・介護サービスの自己負担が増える可能性が高まります。
高齢者ばかりではありません。子どもを育てる人も負担増となります。
たとえば、
- 3歳未満の子の保育料の負担が増える
- 児童手当の支給要件に該当しなくなる可能性が高まる
- 国や都道府県が支給する(私立)高等学校就学支援金等も支給額が減少または不支給となる可能性が高くなる
などの影響も出てきます。
以上のとおり、税制改正大綱ではたった2行で表記されていますが、影響は甚大です。
正確には個々人でその影響が異なるため、税理士や税務署への相談をお勧めしますが、2023年分から、配当控除の適用は慎重に考えることをお勧めします。
なお、2022年までの配当は従来どおりですので、所得税は総合課税、住民税は申告不要という制度をぜひ活用しましょう。
現在、株式や投資信託を保有の方、これから資産形成をお考えの方で、詳しく知りたい方はぜひ私たちFPにご相談ください。