「年金が減るから働くのは損」はホント?

国の年金は原則65歳から受給できます。
国民年金保険料を納めてきた人、会社員や公務員として長期間務めて厚生年金保険料を納めて来た人は払った分はもらえると信じて支払っているはずですが、60歳以降、厚生年金保険の適用事業所に勤務している場合、「給料」と「年金」の合計額によって減らされる可能性があります。
今回は、多くの会社員や公務員に関係する可能性がある65歳以降の給料と年金に応じて支給調整される在職老齢年金の制度について解説し、65歳以降の働き方を公的医療保険や税制面からも考えます。
減らされる可能性があるのは「報酬比例の老齢厚生年金」のみ

会社員として保険料を納付してきた人は
65歳に達すると
国民年金から老齢基礎年金、
厚生年金から報酬比例部分、経過的加算、(要件を満たせば加給年金)が支給されます。
65歳以降、給料を受け取ることにより支給調整される可能性があるのは「報酬比例部分」のみ。経過的加算は減額されず、加給年金は報酬比例部分が1円でも支給されれば全額支給されます(報酬比例部分の年金が全額支給停止になれば、加給年金もゼロとなります)。
つまり、支給調整されるのは全体ではありません。
では「給料」と「年金」とは具体的に何を指すのでしょうか?
また、いくらを超えると支給調整されるのでしょうか?
給料とは、正確には「総報酬月額相当額」といい、
「標準報酬月額」+「直近1年間に受給した標準賞与額÷12」により求められます。
標準報酬月額は、給与明細から分かります(厚生年金保険料÷9.15%)。
なお、70歳以上の人に厚生年金保険料はかかりませんが、在職老齢年金制度が適用され、年金が支給調整されてしまいます。理不尽ですが、そういう制度です。
年金とは、正確には「基本月額」といい、「報酬比例部分の年金÷12」により求めます。
総報酬月額相当額と基本月額の合計額が47万円を超えると、超える部分の半分が支給調整されます(この金額は毎年度変わります)。
例1 総報酬月額相当額30万円+基本月額12万円 < 47万円
→ 支給調整なし
例2 総報酬月額相当額40万円+基本月額14万円 > 47万円
→ 54万円-47万円=7万円 → 月額3.5万円を支給調整(年額42万円減少)
例3 総報酬月額相当額50万円+基本月額16万円 > 47万円
→ 66万円-47万円=19万円 → 月額9.5万円を支給調整(年額114万円減少)
以上から、例1のように、65歳以降の給料がサラリーマン平均に近い人は支給調整の対象とはなりませんが、例2,例3のように高額の給料を受け取る人は年金額が支給調整される可能性が高くなります。
「医療保険や税金のメリット」と年金の支給調整を天秤に

支給調整を回避する方法はあるかといえば、ないことはありません。
例えば、
・厚生年金被保険者とはならず、会社と業務委託契約を締結して働く(個人事業主)
・厚生年金被保険者とはならない範囲で働く(週所定労働時間20時間未満等)
等、厚生年金保険の被保険者とはならない働き方を選択することが考えられます。
ただ、65歳以降、厚生年金保険に加入した期間分は、退職後(70歳以降も働き続ける場合は70歳到達後)の年金に反映されるため、在職老齢年金により短期的には減らされるデメリットはありますが、長期的に考えれば、年金額を積み増しできるため、一概に厚生年金被保険者として働くことがデメリットであるとは言い切れません。
また、厚生年金に加入すれば、健康保険にも加入します(最長75歳に達するまで)。
健康保険は給与(報酬)のみにかかり、扶養家族の保険料はかかりませんが、
75歳未満のリタイア世代が加入する国民健康保険は、家族全員分の保険料がかかり(均等割)、給与(報酬)以外の所得にもかかる(所得割)等、高くなりがちです。
また、健康保険加入者であれば、病気やけがで働けない期間に支給される傷病手当金も、国民健康保険にはありません。
所得税・住民税でも働きながら年金をもらうのは有利。
給与には給与所得控除、公的年金には公的年金等控除というみなし経費を差し引くことができ、両方の控除を活用できます。
在職老齢年金の仕組みだけを考えると、厚生年金に加入して働くことは損かもしれませんが、公的医療保険の保険料や給付、所得税・住民税の仕組みも考えると、65歳以降の働き方について考える判断要素の一部に過ぎません。
人生100年時代と言われる中、何かと老後生活への不安はつきません。
働くことで得られる給与収入を失ったダメージは計り知れません。
年金が減らされることは確かに面白くありませんが、やりたい仕事、環境、健康状態等とのバランスを考えて、最も自分や家族が安心できる働き方を選ぶようにしてください。