年金資産運用を老後資金準備の参考にしてみては?
2021.02.08
2021年1月14日、日経平均株価は28,900円台に乗せました。
2012年10月、8,000円台であった株価は、アベノミクス相場で一時期24,000円台まで上昇。その後、コロナショック下において、一時、日経平均株価は16,000円台まで下がりましたが、日本銀行のETFの購入枠倍増等のさらなる金融金融緩和策等により急落を食い止め、その後、コロナショック前の水準まで回復しました。
日本の公的年金の運用もコロナショックにより一時的に落ち込みましたが、
2020年度はその下落幅を大きく上回る収益率を実現しています。
今回は、日本の年金資産の運用について解説します。
日本の年金資産は物価上昇以上の運用収益
日本の年金は、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が運用しており、その資産規模は約167兆円となっています(2020年度第二四半期末現在)。
市場運用開始以降、2001年度から2020年度第二四半期までの期間、年率平均3.09%、累積収益は約74兆円となっています。
金融機関の破綻が続いた1990年代後半からアベノミクス相場が始まるまで、株価も低迷していましたが、2001年度以降、物価上昇率以上の運用成果を上げています。
「年金資産の運用損失○兆円」のようなニュースが時々取り上げられますが、
過去の実績を知っている人から見れば、損失が生まれるのが稀だからだと理解できますが、世間的には、運用が悪いから年金不安が高いように勘違いされているように思います。
公的年金が先行き不安である大きな原因は、余命の伸びと現役世代の減少なのです。
各年度の収益率(2001年度~2020年度第二四半期)
2001年度 | 2002年度 | 2003年度 | 2004年度 | 2005年度 |
-1.80% | -5.36% | 8.40% | 3.39% | 9.88% |
2006年度 | 2007年度 | 2008年度 | 2009年度 | 2010年度 |
3.70% | -4.59% | -7.57% | 7.91% | -0.25% |
2011年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 |
2.32% | 10.23% | 8.64% | 12.27% | -3.81% |
2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度
第二四半期 |
5.86 | 6.90 | 1.52 | -5.20 | 11.59 |
年度ごとにみると、もちろん赤字の年度もあります。
2001年度、2002年度はITバブル崩壊、2007年度、2008年度はサブプライムローン、リーマンショック、2015年度はチャイナショック、そして2019年度はコロナショックです。
ただし、最も大きい年度で▲7%台となっており、大きな下落相場でも、マイナス幅を抑えることができています。これは分散投資効果が効いていることを証明しています。
年金ポートフォリオは債券50%、株式50%、国内50%、海外50%の分散投資
GPIFによる年金資産の運用構成比は、国内外で50%ずつ、債券・株式で50%ずつが基本となっており、構成比が大きく変動するとリバランスを行います。
リバランスとは、割合が増えたものを減らし、割合が減ったものは増やすことで、一定のルールに従って、バランスを戻すことをいいます。簡単に言えば、景気がよくなれば、後に悪くなり、景気が悪くなっても、後によくなるという景気循環を前提にした運用スタイルです。
GPIFの基本ポートフォリオ(増減割合)
債券50%
(±11%) |
日本債券25%(±7%) | 日本株式25%(±8%) | 株式50%
(±11%) |
外国債券25%(±6%) | 外国株式25%(±7%) |
例えば、日本の株価が上昇し、資産構成割合が一定割合を上回ると、国内株式を売却(利益を確定)して、構成比が低くなった他の資産を購入します。
反対に、日本の株価が下落して、資産構成割合が一定割合を下回ると、他の資産を売却して、日本の株式を購入します。
今回のコロナショックのような下落局面や上昇局面でも、このようなリバランスは大きな効果を発揮します。
株価が下落し、株式の割合が低下したため、株式を購入してリバランスを図り、その後、株価が上昇すると、結果的に、リバランスをしない場合に比べて多くの運用収益を得られますし、2019年度の損失と2020年度(第二四半期まで)の収益率を見ると、リバランスの効果が感じられます。
バランスファンドのうち、信託報酬が安いタイプに多い「リバランス運用」
ただし、自分でリバランスするのは、意外と難しいものです。
株価が上昇しているときにはもっと上がるのではないか・・と考えて売るのをためらってしまいがちですし、株価が下がっているときに、もっと下がるのではないかと思うと、買うのをためらってしまいがちです。
バランスファンドには、GPIFのように基本ポートフォリオを設け、一定割合の乖離したときにリバランスを図る「資産配分固定タイプ」、
先行き強気(景気がよい)と考えられる局面では、株式やREIT(不動産投資信託)の割合を増やし(債券等の割合を減らし)、
先行き弱気(景気が不透明、悪い)と考えられる局面は、株式やREIT(不動産投資信託)の割合を減らす(債券等の割合を増やす)「資産配分変更型」があります。
おそらく、投資信託初心者やリスクを嫌う人には、「資産配分変更型」のほうが安心に聞こえると思います。
バランスファンドのうち、資産配分固定型と資産配分変更型を比べると、今回のコロナショックでは、GPIFと同じスタイルである資産配分固定型のほうがコロナ後のパフォーマンスがよいケースが多くなっています(もちろん、結果論です)。
なお、投資信託保有者が日々負担する信託報酬も、資産配分固定型は機械的に運用できるため相対的に安く、資産配分変更型は、随時投資判断を伴うため、相対的に高い傾向があります。
なお、前述のとおり、累積では利子や配当等のインカムゲインが多くなっていますが、以前とは異なり、海外も含めて世界的に低金利であるため、今後、債券の利子収入について以前ほど多くは見込めません。そこで、債券と株式に分散投資するバランスファンドを買うのではなく、預金と株式インデックスファンドで、バランスを取るという考え方も1つの方法です。
中長期での運用で重要なことは、物価上昇以上のリターンを求めつつ、リスクを分散・管理することです。
多くの皆さんが上手くいっていないと感じているGPIFも、実は物価以上の運用収益を確保しており、そのGPIFの基本ポートフォリオやリバランスについて解説しました。
iDeCoやつみたてNISAで投資信託を利用して老後資金を準備する1つの方法として、GPIFの運用の考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか?
老後資金準備についてもう一歩前に進めたいとお考えでしたら、お気軽にご相談ください。
文・益山 真一(ますやま しんいち)
1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。
CFP認定者、消費生活アドバイザー、マンション管理士、
ダイエット検定1級、食生活アドバイザー2級
國學院大學経済学部非常勤講師(2003年から2017年まで15年間國學院大學経済学部非常勤講師)
航空系商社、FP会社勤務を経て、2001年よりフリー活動を開始。
人生の3大資金である教育資金、住宅資金、老後資金を効率的に手当てし、
人生を楽しむお金を生み出すことをテーマとして、日々、相談や執筆、講演活動を展開。
FP資格取得・継続教育、高校・大学の講義のほか、
金融機関等の社員研修、投資家向けセミナー、参議院や内閣官房内閣人事局人事局主催の
キャリアデザイン研修講師まで幅広く務め、セミナー・研修・講義は2019年6月時点で通算2935回。
長女も12歳3カ月でFP3級、16歳時受験でFP2級に合格するなど、わかりやすい伝え方に定評。
活動理念は「心、カラダ、キャリア、時間、お金」の5つの健康のバランスを考えた最適提案。
相談業務は、30代および40代の家計の見直し、教育・住宅・老後等の3大資金準備に対して、
お客様のライフプランや価値観に基づき、メリット・デメリット・リスク・注意点を伝えながら、
1つでも多く「改善できるヒント」を提供するべく活動している。
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